隼総



隼総
→短編の、この感情に何と名前を付けようかとつながっている。



あの時一度だけ俺を英聖と言った。彼女の真剣な顔を覚えている、すぐにいつものちゃらけた真剣さなど微塵にもない顔をしていたけれど、彼女の気持ちが伝わってきて俺は気恥ずかしく思った。次の日から、何かが大きく変わるのだろうか、とか男心に期待してしまったのだが非常に残念なことに何も変わらず未だに「プリンス(笑)」と俺を呼称するのでこの間のは、都合のいい白昼夢だったのではないかと思えてくるほどであった。
「はぁ……」
「プリンス(笑)なんか元気ないね?」
告白とかそういうのではなかったのだろうか、もしかして。有りえるかもしれないなぁ……。俺のこと好きならもう、その呼び方はやめてくれよ。しかし、思わせぶりな台詞を言っただけであって「好き」とは直接言っていない。白黒はっきりしねぇなぁ。
「お前、本当に俺の事好きなのか?」



俺の問いかけに一度、首を傾けた。それから、恥じる様子もなく「うん、好きだよ」って何当然のことを聞いているの?と逆に聞かれてしまった。こいつには恥と言うものは存在しないらしい。
「せめて、苗字でもいいからプリンスはやめてくれねぇか?」
「傷ついている?傷心気味のプリンス(笑)も可愛いよ、あ、違った麗しいよ」「……」
返す言葉が無い。心の底をじりじり炙られているような感じだ。何だよ、あの時すげぇ意識したのにさ。これじゃ、俺だけが滑稽で馬鹿みたいだ。
「……はぁ、男心は難しいなぁ。どう、接したらいいかわからないよ。君が好きなのにね」
「取り敢えず、普通に名前を呼んでみるところからスタートしてみりゃいいだろうが」
俺はお前にプリンスって呼ばれるのが嫌だって何度か言ったじゃないか。それにしても、近頃は西野空とコンビで来ることなくなったんだなと不思議に思い口にしたら、彼女が口角をつり上げた。
「うん、西野空といるともっとからかっちゃうし、私素直じゃないからさ」



一理あるだろうな。あいつは俺を小ばかにするのを楽しみにしている節がある。よく突っかかってくるし(俺もやり返すし)。因みに仲が悪いわけではなく、寧ろいい方であって悪友って感じだ。俺も奴らが嫌いじゃない。まあ、彼女の場合西野空と一緒に居るとよくないということなんだろう。ついつい便乗して突っかかるみたいな。
「ひ、英聖……」「……ああ?」「また、たまにこうして一年の校舎……じゃなくて、君に逢いに来てもいい?」
今まで見たことないくらいにしおらしい。余程、勇気を振り絞って言ったんだろう。顔が茹で上がっていて、見ているこっちが可哀想なくらいだった。好きって言った時は、サラッと言ったくせに。好きというのとだとこっちの方が難易度低いんじゃねぇのか?よくわからねぇな……。ただ、真剣であるということは伝わってきた。
「おう、此処で待っていてやるよ。だから。来いよな」
お前が来ないとこっちが心配すっから。……やっぱり、俺も彼女の事が少なからず気になってしまっているのだから。

  


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