光良



夜桜

「おはようー!おきて、おきて!朝だよ!」
煩い程に起きて起きて、と連呼し続ける夜桜に薄目を開ける。朝日が眩しくて今日も変わらぬ朝がやってきたのだと、理解した。ああ、それにしても珍しいこともあるものだ。夜桜が私よりも、目覚ましよりも早く起きるだなんて。目を瞑ろうとすれば、夜桜がそれに気が付いてまた騒ぐ。
「起きて!つまんない!」
ああ、なるほど。早く目が覚めたのはいいけど暇だから私を起こそうと、思っているのか。折角の休みだから、だらだら寝て過ごしたいのに。それを夜桜が許してくれそうもない。まだ髪も結っていないのか、ワインレッドの長い髪の毛が動くたびに動きに合わせて、ふわふわ揺れる。



「おねがい……あと、五分だけ……」
お決まりの台詞を口にして、夜桜が乱した布団を引き寄せて、頭まですっぽりと朝日を遮断するように被る。暖かな毛布の誘惑からは私は逃げることはできない。
「やだ!そう言って沢山、寝るくせに!遊びに行きたい!行きたいー!」
前半部分においては否定はしない。五分だけ、なんて言っているけれど五分後に起きられるという自信は皆無に等しい。
「……、寝たい」
「酷い!!起きてよ、お願い!寝るのと俺だったら俺の方が大事だろォ?!」
ぺしぺし布団越しに私を軽く叩いてきたり、抱き着いたりして気を散らす。安眠妨害にも程がある。「寝たい」といっても夜桜は駄々を捏ねる子供のように、やだやだって言って私の言うことをきいてくれない。目覚まし時計を布団の隙間から覗き見れば、まだ短い針が七をさしているじゃないか。ああ、休みの日なんだからもっと寝かせてほしいんだけどなぁ。



「うー、……このまま寝るって言うなら襲うからっ!それでもいいなら、寝ていればっ!」
最終兵器と思われる発言を投下。寝ぼけた頭でも流石にそれはまずいと、瞬時に理解できた。危険を察知する能力は衰えていないらしい。生き物って凄いね。
「ぶっ!わかったわかった!起きるから」
私の推測からいけば夜桜の襲う発言も恐らくは、本気だと思われる。私がいつまでも布団にしがみ付いて思い通りに行かないから。まあ、本気で嫌がれば逃げられるとは思うけど、すこぶる機嫌は悪くなるのはまず間違いないだろう。まあ、夜桜の機嫌は単純で割とすぐに直るから実はそこまで面倒ではない。このまま寝ていてもいいのだけど……。やっぱり、夜桜と遊んであげようと思う。夜桜が可哀想に思えてきた。こんなに必死に起こそうとしているのだし。



気怠い体を上半身だけ起こすと、なぜか夜桜が私の肩を押して布団に押し戻した。夜桜はそんな私の上に馬乗りになって見下ろしている。何故?と見上げれば夜桜が何かを企んでいるような笑顔を張り付けた。口元が引き攣るのを感じる。うわわ、嫌な予感しかしない!
「あはっ!やっぱ、遊びに行けなくていーや!こっちの方が楽しそうだからっ!」

  


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