神童



昼は嫌いだ。お弁当を友人である霧野や部活の仲間と食べるのは嫌いじゃない。そこに問題はないし、何も生じない。ただ、問題があるとすれば一つ上の先輩である苗字さんが弁当を忘れて俺の所にたかりに来るときがあるという所である。勿論、毎回ではないし苗字さんは忘れなければ用が無いのか、俺の元へはやってこない。隠れ場所を探しながらうろうろして、今日は図書室か音楽室あたりに行こうと考えた。(前回は部室にこもっていたら見事にばれて、しかも退路が無いという始末)「霧野、今日は音楽室にしよう」「苗字先輩、今日も忘れたと思うか?……俺も思う」友人である霧野に持ちかけると、最近は連続で忘れているから油断できないと頷いた。



こそこそ人ごみに紛れるようにして、音楽室に到着した。道中で苗字先輩らしき人を見ることも無くほっとして扉を開けると、先客が居た。俺は認識するなり悲鳴をあげて扉が壊れるとかそういう配慮も無しに力いっぱい扉を閉めた。霧野が驚いたように俺の顔を覗き込んだ。「おい!ま、まさか」「き、霧野……逃げるぞ!!」霧野のことを気にする余裕もなく、走り出そうとしたときに思い切り閉めた扉から白い腕が出て来て俺の体を後ろから羽交い絞めるように抱きしめた。「神童君、こんにちは。うふふ、神童君から会いに来てくれるなんて嬉しい」「こ、こんにちは」「……こんにちは、苗字先輩」霧野も挨拶をしながらため息をついて、俺たちの横をすり抜け音楽室の椅子に腰かけた。もう諦めムードだ。「も、もう逃げませんから、」目に涙が溜まってきたのを察して苗字先輩が離してくれた。



「ふう、お腹すいたわね」「……はい」俺が泣く泣く弁当を開けると苗字先輩が瞳を輝かせた。「わぁ。美味しそうね」「そうですか?」苗字先輩の元々の目的は此処にある。俺に逢いたいとかそういう可愛らしい理由とか、ファンとかそういうのでは一切ないのだ。「神童君に、もしものことがあったら、ファンが悲しんじゃうわ。ていうことでいただきます」一つ、おかずを箸で摘まんで口に運んだ。箸の持ち方は手本に慣れるんじゃないかと言うくらい、相変わらず綺麗なのだが「うんうん。美味しいわ」毎度の事、毒見と称して俺のおかずを何品も取るのだ。霧野曰く「特に高そうなおかずを集中的に狙っているぞ」との事。俺にはどれが高いとかよくわからないのだが、「苗字先輩、神童のばかり取ると可哀想です」「でも、毒にあたって神童が倒れたら、茜ちゃんが嘆き悲しんじゃうもの。それに毒で倒れるなら庶民の私の方がいいでしょ?ん、これも美味しい。あ、これにも毒があっちゃ大変ね。毒見毒見」また、おかずが一品減った。「お言葉ですけど、あんまり取られると俺がおなか減って練習で倒れちゃいます」



「……そうね、仕方ないわね。霧野君からも貰いましょう」霧野の方へ目移りした苗字先輩に霧野が慌てた。被害がこちらに来るとは思っていなかったらしい。「え、じゃあ神童の食べていていいですよ。こいつの重箱レベルですし」「霧野っ!!」「そうよね、毎回食べきれないでしょうに」苗字先輩が俺の弁当に視線を戻した。「た、確かに食べきれないことの方が多いけど、俺がお腹すかないようにって……使用人が」「これだから金持ちのボンボンは……ねぇ、霧野君」「ねぇ」よくわからないけど、貶されたらしい。なんで毒見と称して毎回俺のおかずを食べていく苗字先輩にそんなこと言われなきゃいけないんだ。もう来ないでくれ!……なんて目上の人相手にそんな強い事言えないのだけれど。



当の毒見隊!


  


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -