星降



星降君が割と最低。


屋上のドアを開け放つと同時に風に乗った名前の言葉が俺を罵倒した。「あーあーあー、本当に最低ね」名前と普段逢うときは屋外が多い気がする。気のせいではない、俺がサボる先が学校ならば屋上だからだ。勿論、遊びに行きたくなったら学校の外へも行くけど名前が居る事が多いから、最近は何の気も無しに屋上に足が向かう。自然と逢瀬を繰り返す。特に意味もないけど。他の女子と違って、俺に色目を使ってくるわけでもないから、居やすい。俺はちょっと興味あるけど。素振りを見せてもまったく、靡かないから。恋愛感情は無いけど。遊ぶくらいならいいかなって。「いきなり、それ?」名前の罵倒の理由を俺は知っていた。「だって、最低だと思ったんだもの。友人の好きな人、普通取る?」「別に。だって、向こうから好きだって言ってきたから」「喜多君が可哀想。あんなに真剣だったのに」



喜多のことを考えてか、もう一度「可哀想」と呟いた。俺の罪悪感を煽るのが目的だと思ったのだがどうも違うのかもしれないな、と漠然と思った。「喜多の見る目が無いんだ。あんな女の何処がよかったんだ」実際、魅力的な女ではなかった。喜多の見る目が無いんだ、盲目的なまでに恋をしていてまったく、聞く耳も持たなかったわけで。利用されているとも知らずに、本当に可哀想。俺が加害者だとすれば、喜多は多分被害者。「でもさ、実際喜多は利用されていたよ。俺とか隼総に近づきたかったみたいだしあいつ」「そうみたいだね。で、なんで手を出したの」「据え膳食わぬは男の恥」取ってつけたような言葉に名前が「あっそ」と興味なさそうに吐き捨てた。



「ていうか、名前はホッとしているんじゃない?」「……」名前が黙した。それをいいことに俺が、責めたてるように口角を持ち上げた。言い訳できるの?出来ないでしょ。喜多の事可哀想とか同情を寄せているふりしながら、本当は喜んでいるんじゃないの?「喜多の事ずっと好きだったのは名前の方でしょ」言い返さなかった。それでいいんだよ。「本当に可哀想だと思うならば、傷心気味の喜多でも慰めてあげれば?」「それが出来るのならば、此処にはいないよ」名前に近づいて顎に手を添えた。「ふぅん?俺からすれば名前も相当、可哀想」報われないよね、名前もさ。一番傍に誰がいたのか喜多はわかっちゃいない。本当に一途に思い続けていたのも、喜多の事を真剣に考えていたのも、名前のほうなのに。「……」名前の潤沢な瞳が僅かに揺らいだ。



「報われないね、名前。俺に言えば慰めるくらいしてあげるのに」
優しいキスをあげようか?それとも、抱いてあげようか?俺って結構捗々しいから、名前の望むものちょっとだけならあげられる。そうだ、一時の慰めだ。愛が無くったって心を埋めるくらいできる。「いらない、」「それは残念」無理強いはしない主義だから、添えていた手を離してあげた。あーあ、落ちるかと思ったのにな本当に残念。



ーゲンビリアの花束を打ち捨てる

*ブーゲンビリア=薄情もの。勿論これだけじゃないです。


  


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -