喜多



喜多

朝練もあって、更に暗くなるまで部活。よく言えば青春。悪く言えば……自由な時間がなさそう。深いため息は私の心そのものを表しているようだった。隣に居るはずの喜多は、土曜日だっていうのに部活で居ない。こんな時は雨が降ればいいのにな、って思ってしまう。雨なんて昔は大嫌いだった。雨の日の外出なんて靴まで濡れて最悪だし、風邪はひくし。それでも、今はそれを心の底から待ち望んでいる。不思議なものだ。降水確率は三パーセント。真面目なデコ助は「いってくる」って清々しい程の笑顔で出ていくもんだから(最近は妙にいい笑顔を浮かべる。でもきっと私は関与していない)、こっちだって本当は嫌だけど喜多に心配かけないように笑顔で「気を付けて行ってらっしゃい」なんて言わなきゃいけない。馬鹿みたい。



「雨が降ればいいのに」
忌々しい程に広がる青、蒼天。バケツをひっくり返したような土砂降りならば、あの真面目な喜多だって流石に「今日は、部活は無理だな」ってしょげた顔で諦めてくれるだろうに。それから、家で私とのんびり過ごすのだ。ああ、性格が悪い。本当、性悪ね私は。こんな悪女が喜多の彼女と言うポジションに居座り続けているなんて世も末ね。“寂しい、一緒に居たい。”そんな可愛らしいことを言える女の子が少しだけ羨ましい。ただ、その台詞はあまりにも酷だということを私ですら、理解している。だけど、独りのこの空間はあまりにもさびしすぎる。待ち望む雨はいつだって、私の期待を裏切る。



「ただいま」
喜多が帰って来たらしい。時計に目を向ければまだ三時でどういうわけかいつもより随分と早いご帰宅だった。「おかえり」と玄関まで出迎えればどこか、ばつの悪そうな表情を浮かべていたがすぐにぎこちなく笑顔を作った。鋭い瞳がへにゃりと細められた。
「……たまには、一緒に出掛けようか。近頃は部活ばかりで、すまなかった」
様子的に、大よそ星降か隼総あたりにでも何か言われたのだろう。嬉しいのには変わりがないが、喜多らしいなとも思った。喜多が手を私に差し伸べる。私はその手を取って外へ出る。外は相変わらず青々としている。ああ、そうだ。前言撤回しておかなければ。やっぱり、今日は雨降らなくていい。というか、降らないでほしい。


  


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