西野空



西野空

早朝の登校路、小さな水溜りに氷が張っている、まだ誰も踏んでいないのかひびすらも入っていない。隣を歩く西野空よりも少しだけ、歩調を速めて氷を割るために勢いをつけて足を下ろした。ペキッペキッ、良い音がして私の体重を乗せた薄い膜はひび入り、割れた。細かな屑と欠片が飛び散った。単純なことではあるが、気分は爽快だ。
「……あんまそんなことしていたら転ぶよぉ?君、……ドジなんだしさぁ」
相変わらず嫌味な男だ、ムッとしてしまう。西野空の言葉を聞こえないふりをしつつ次の水たまりの氷を割ってやる。



ピシピシ、先ほどよりも薄い氷の膜の上に両足を置いた。下は固まらなかった水だろうか、表面だけの氷だった。ひびからじんわりと水がにじみ出てきた。先ほどよりも爽快感は薄いが、進もう。と、氷から足を離そうとしたときにツルッと滑ってしまった。推測するに、水が滲んでいたから足場が悪かったせいだろう。西野空の警告を無視すべきではなかったのだ。何とか、体制を立て直そうとしたが運動神経は極端に鈍く、何もしていない私はそのまま地面とこんにちは、するしかなかったのだ。(勿論、そんなことは避けたかったのだが無理だった)



咄嗟に前に倒れる衝撃に備えて、腕を前に突き出した。だが、地面とこんにちはをするよりも先に西野空の片腕が体を捕まえた。
「だから、言ったじゃん。お世辞にも君、運動神経よくないんだからさぁ」
呆れを含んだ声色に、恐々しながら未だに私の体を捕まえたままの西野空を見ると口元が弧を描いた。
「ほら。有難う、は?」
恩着せがましくお礼を言うように、言ってくる。お礼を言おうとした口が閉ざされた。が……確かに今回は西野空の言うとおりである。助けてもらったのだから、不本意ではあるが礼を言うのが筋だろうともう一度、閉ざされた口を開いた。



「あ、有難う」
西野空に面と向かって礼を言う機会なんてそうそう無いので、何処か気恥ずかしそうな小さな声だったが西野空には届いたのからしくもない顔をしたあとに笑って見せた。
「……んー、全然心が籠ってないよぉ。お礼を言うならちゃんと、態度で示さなきゃ……ね〜ぇ……?」
何か言いたげに視線を私に向けた後に、拘束を解いて自分の唇を指先でツンと触れた。「キスしてよぉ」さも助けたんだから当然だと言わんばかりに私に変な要求をしてくるのだ。ああ、やっぱりろくでもない人だ。

  


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -