星降



星降が珍しくぼそぼそと聞き取りにくい声量で静まり返った部室の中でいう物だから西野空も、耳に神経を集中させて聞き取ろうとした。どうやら彼は「名前にキスどころか、手も繋げない」と言っているようであった。暫く西野空は言葉の意味をよく噛み砕いて、あり得ないと顔を顰めた。……本当に珍しいことがあるものだ。星降の友達である西野空は彼の女癖の悪さをよく理解していたつもりだし、咎める義理もないので話を聞いていた程度だったのだが付き合って三か月ほどたった、彼女である名前に何一つ手を出していないとなると星降の体調でも悪いのではないかと疑わずにいられなかった。「……名前にキスどころか、手も繋いでいないだなんていったい何事ぉ?」率直に尋ねれば星降は「……俺にもわからない」と原因不明であることを西野空に告げた。



「ただ、名前はその今までの女子と違うって言うか……本当に好きなんだ、少し触れるだけで、ドキドキするし、」と言われた。杳としていてわからない。星降という男にそんな感情がまだ残っていたという事実も、星降が女子と三か月持ったという事実すらも信じがたいのだ。名前という女子がそれほどまでに特別で凄い女子なのか?と西野空が素直に疑問を口にする。
「そんなに凄いの?名前って」
西野空は名前の話を星降から聞いていても、面識はなかった。だから、想像上の(星降から与えられた情報の彼女)名前しか知らないのだ。僕にも逢わせてよ、紹介してよと口を開きかければ星降に制された。
「駄目、いや……多分、普通の女子だと思う」
星降という男はどちらかというと寡黙で、思ったことも思考の中で納めることが多いので本当かどうか疑わしいのだが、西野空はひとまず頷くことにした。一番波風を立てない方法である。



「ふぅーん?まー、でも手ぇくらい握ってあげたらいいじゃん。そんなんじゃ不安になるでしょ〜?」
そういうの得意でしょ?厭味ったらしく言ってやれば星降が不愉快だと眦つりあげて口を結んだ。「あー、怒っちゃったぁ〜?でも、僕の意見の方が正しいと思うよぉ。他の女子に散々色々やってきたくせに自分だけ手も繋いでくれないってなると、やっぱ不安になるんじゃないのぉ?」自分の意見をべらべら適当に述べていれば星降も不愉快そうな顔から、「確かに……」と妙に納得したような面持ちになっていった。今回ばかりは自分よりも西野空の方が、筋が通っていて説得力があるように感じられたからだ。



「というかぁ、こういうことは本来、星降の得意分野だと思うんだけどぉ?なんで、本命にはそんな気が回らないわけぇ?」
女心に一番、近くて適当なことを言えるのは星降くらいなのにさ。僕にも分けてほしいくらいだよ、心の籠っていない悪意をぶつければ「いつから、こんなのが俺の得意分野になったっていうんだ、人聞きの悪い、」そう言ってだいぶ気を悪くしたのか「もういい」とだけ言い部活で飲みきれず余ったドリンクと使い終わったタオルを鞄に詰めて部室のドアに手をかけた。西野空がまた地雷を踏んじゃったなぁと大して反省もせずに「はいはい、頑張ってねぇ」と砕けた様にへらへら笑うのだった。



グった、


  


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