雨宮と風邪ひき



なんか鬱々とした太陽君と夢主



一日目、僕にとっての世界がもう少し開けていれば、こんな気持ちになど成らなかったのだろうか。テレビに映る世界があまりにも広くて、僕はいつも駆け出したくて仕方が無かった。外から見える景色はいつもきまりきっている、不変。思い切り皆とサッカーが出来れば楽しかろうと、心の中でふつふつと沸き出てくるどうしようもない感情に怯えた。名前が来ない。いつもならば、当に来ている時間である。それでも僕はこの狭い世界の中で名前を待ち続けていた。名前が来ない。もう、面会時間は当に過ぎた。今日はもう来ないんだろう、そう諦めた。ふて寝をするべくして白い布団を引き寄せた。僕はとても、孤独だった。たった、一日来ないだけで僕の心の平穏は脆く崩れ去るのだ。



二日目、今日もやってこない。面会時間ぎりぎりまで僕は期待することをやめられなかった。携帯を見ても一通も連絡が入っていない。チームの仲間からのメールは何通か目を通したが、心が満たされない。何度も新着メールが来ていないか確認を繰り返した。白い、白い。この世界は何処までも白くて、死の匂いがする。昨日まで喋っていた誰かが死んでいく。それはとても、恐ろしいことだ。明日、僕もいつの間にかベッドの上で冷たくなってしまうんじゃないかと言う恐怖に駆られてしまうのはそのためだ。そんなこと有りえないのに、そう思えてしまう説得力がこの場所にはある。名前に逢いたい。



三日目、ようやく名前からメールが入った。どうして面会に来てくれないのか初めて知った。名前は風邪を引いていたらしい。それも高熱で、僕にうつるといけないから暫く僕との面会はできそうにもないとのことだった。寂しいけれど、そういうことならば仕方がないと僕は納得した。穿った見方をしたことを後悔した。外の世界を自由に駆け回ることのできない僕を見捨てて、僕を残し何処か遠くへ駆けて行ったのかと思ってしまったのだから。僕は、名前の太陽なんかじゃなくて、名前が僕にとっての太陽なのだ。養分や水分を与えてくれる貴重な存在、そんな名前を愛している。



四日目、だいぶ回復したようで電話がかかってきた。僕の酷い妄想をかき消した、風邪によって声帯をやられたんだろう、掠れた声が携帯越しに聞こえて、僕の被害妄想に過ぎやしなかったのだと再確認した。「ごめんね」独り言のように呟いたら名前にも聞こえていたのだろう。「何が?」痛々しい、声が聞こえた。「いや、いつも来てくれていたから……少しだけ不安になったんだ。僕が此処にいなければ、つきっきりでずっと看病していたいよ」叶わない願いだけど。なんで、僕の愛しい人が風邪で臥せっているときに僕は何も出来ないんだろう。「有難う、ケホケホッ。ごめんね、咳が止まったら会いに行くよ」慈悲に満ちた声が聞こえた。僕の心が幾分か救済された気がした。少しでも気持ちが伝わればいいのに。



五日目、いつだって僕は名前に何もしてやれていない。まだ少しだけ空咳が出ているようだが、電話での声は昨日よりも自然な声になっていた。昨日ほど痛ましくない。「明日、逢いに行くよ。ああ、でも……完治してからのほうがいいかな、太陽の体は強くないしうつったら、よくないよね」じゃあ、やっぱりもう少ししてからにしようかな、とまだ喋っている名前に僕はあえて言葉をかぶせた。「明日、もし無理じゃなかったら来てよ」だって、こんなに会えなかった日なんて無かったから。僕は寂しくてたまらない、脆弱な心は名前を欲してやまないのだ。これを逃したら次はいつになるんだい?教えてくれよ。



六日目、僕が昨日珍しくわがままを言ったからだろうか名前は白いマスクをしてはいたものの来てくれた。度々咳はしているが、完治の兆しは見えている。「久しぶり、太陽」口元は見えないけれど目が優しく笑っていた。「寂しかったよ、」らしくない言葉に名前が驚きに目を少しだけ見開いた。「僕は他の皆みたいに、名前と好きな時に色々な所へも行けないから」だから。ベッドに座って名前を見上げていた僕の体を抱きしめた僕よりも暖かい熱に包まれた。これが、答えだ。


  


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