磯崎に看病される



「馬鹿じゃねーの。てめぇは体調管理もできねぇのか」
弱りきって、息も絶え絶えの私に対する言葉は随分と辛辣で、なおかつ労わりが見えないものだった。もう少し優しく扱ってほしいな、と思いながら弱った視線を漂わせれば「こっち見るんじゃねー」ってそっぽ向かれた。酷い。酷すぎる。磯崎に優しさを求めることが間違っているのか……?彼は粗暴だけど、割と硬派らしい。毒島談だが。うーむ、信用に欠けるな。毒島談ってところが特に。



「ケホケホッ。もういいよ、わかったよ。帰っていいよ」
「……おい、帰るとは言ってねぇぞ」
このやり取り、デジャヴ?あ、違う。そういえば、前に磯崎を看病したときにこんなやり取りがあった気がする。ああ、なるほど。この既視感はそれか。大体、この風邪も磯崎に移されたもので……磯崎を蝕んでいた菌なのだ。が、強力過ぎてこっちがへばってしまっている。それを数日でほぼ完治という、磯崎の生命力と治癒力には驚きを隠せない。もしかしたら、奴は人間ではないのかもしれない。
「お前、何考えているんだよ、俺の方見てにやけて……」
「いや、磯崎は……ケホケホ、治癒力が高いなぁ、と」
「あ?まったく……お前は。俺の風邪が移ったんだろ。俺のと同じ症状が出てやがる」
はあああ、と私の真ん前で溜息をつかれた。何でよ、磯崎が寂しいから来いって言ったから一緒に居たんじゃないの。腹が立って、壁に顔を背けた。



「………悪かったよ。お前も……その、風邪なら俺に甘えればいいんじゃねーか……」
磯崎から素直な言葉が出てきたのに驚いて、壁から磯崎に向き直ると磯崎が照れたように私の髪の毛を撫でた。うわあああっ!なんだ、この展開は!夢か?!と慌てふためく私。ジッと磯崎を見る。うん、やっぱり、磯崎は偽物だ!間違いない!きっと、風邪の菌に体を乗っ取られたんだ!
「なんだよ、意外みたいな顔しやがって」
「い、磯崎乗っ取られたのね……。私が救ってあげるからね!そんな菌に負けないで……っ!ゲホゲホッ」
「どんな妄想しているんだよ!菌に頭でも侵されたのか?!」
軽く握られた拳が私の額にこつんと当たった。痛くない。オッケ。これは夢だね。磯崎はこんなに優しくないもん。正常な時にデレてくれることなんかないもんね。明晰夢なのかもしれない。てことは私の好きなように事が運ぶ……!はずだ。多分。因みに訓練はしていないので駄目かもしれない。物は試しだ、女は度胸。



「……ねえ、研磨」
「!な、何だよ……名前でなんて呼びやがって。今まで一度も呼んでくれたことねぇくせに……」
意外とうまくいきそう。ま、夢の中だし磯崎を布団に引きずり込むくらいしていいのだけど割と意識が朦朧としているうえに力が入らなくてそれは叶わないだろう。
「好きだよ」
「お前、熱高いのか?大丈夫か?ついにうわ言まで……」
引き攣った磯崎は顔を赤らめている。ジッと見つめて求めている答えを切望していたら、諦めと照れを含んだ表情で俯いた。
「……馬鹿、俺も好きだ。これで、満足か?まったく、仕方のねぇ奴だな。水分とってさっさと寝ろ!……、早くよくなってくんねぇと調子狂うだろうが……」
まだ、夢の中のようです。



*明晰夢→大雑把にいうと、夢を自在にコントロールする能力。


  


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