水鳥



山積みになっている、雑誌を読んでは戻して……それを繰り返している。あたしはそんな名前をたまに横目で見守りながら、生あくびを噛み殺して暇つぶしに携帯を弄っている。特にやることが思いつかない、なので携帯を弄っているというのは微妙に間違った表現でただ、持っているという表現の方が正しいのかもしれない。本日、何度目か忘れた欠伸を手で覆い隠した。
「うーん……」



何かを思案しているのか、手の甲を顎に押し当てて次のページをめくる。覗き見てみれば今、流行のデートスポット……それから、美味しいレストランにいかにも女子の好きそうなスイーツ。美しい景色の見えるホテルなんかが細かい文字と画像と共に紹介されていた。名前は先ほどからこういうものばかりを見ている。
「なぁ、さっきから何しているんだよ」
あたしを放っておいて、面白くねぇんだよって口を尖らせて今日初めて抗議してみた。勿論、後半の面白くない……のくだりは口に出さず、心の中で言ってみただけだ。こんな恥ずかしいこと口にできるわけがねぇ。



それでも、名前には効果があったのか雑誌から目を離してあたしに双眸を向けた。久しぶりに名前と目があった気がした。
「ああ、今度の日曜に水鳥と何処に行こうかなぁ……ってこれを見て、決めていたの。一緒に見る?」
見終わって積んでいた雑誌の一角を崩して、あたしに差し出した。「んなもん、みねぇ」名前に差し出された雑誌を手で払いのけてやると名前は残念そうに、またタワーになっている雑誌の上に重ねた。
「そう、」



また、名前が雑誌に視線を戻そうとしたのであたしが絶妙のタイミングで取り上げた。「あっ」呆気にとられた名前がポカンと僅かに口を開いた。取り戻そうと、手が少しだけ動いたが、諦めたのか元の位置へと戻って行った。だが、恨めしそうに下から睨んできている。
「折角、今度のデートの予定に〜って思っていたのに」
「んなもん、見なくていい。名前と行くところなら、どんなところだって楽しいに決まってんだからな」
携帯をベッドの片隅に落ちないように置いてから、まだ新しい雑誌のページに手をかけて、ビリビリと割いてゴミ箱に投げ入れた。名前はつい先刻まで、恨めしそうな様子だったのに今はニヤニヤ笑っていた。何だよ、と一喝すれば「別に?」と返ってきた。



ートプランはいらない


  


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