一乃を看病する



あー、駄目だ。頭がボーっとして、全然授業の内容が頭に入ってこない。机にびったりと顔を伏せて、俺はただ先生の言葉になるべく集中しようとしていた。体がだるい。なんか鼻水もでるし思いっきり、風邪の症状が出ている。親にも今日は休めば?といわれたのだけど……。いざとなれば保健室行くし、早退するといって家を出た。今ちょっと、後悔している。こんなに悪化するなんて、俺も思ってなかったんだから。家を出る前よりもかなり悪化した症状に俺はただ、耐えるしか道がなかった。薬持ってくれば良かった。



「ちょっと……一乃、大丈夫?」
隣の名前が、そんな俺の様子を見て授業の妨害をしない程度の小声で話しかけてきた。
「……もう、無理かも」
しんどすぎて、このまま座って授業を受けるというのは明らかに無理だ。先生の言葉は右から左へ流れていくだけで、ノートの字もぐちゃぐちゃ。読めたものじゃない。あー俺、何語を書いているんだろう。謎の言語を見つめて俺は少し首をひねった。すごく字が綺麗というわけではないのだがそれなりに読める字のはずの俺の文字は砕けていた、これでは小学生の文字以下だろう。名前はそんな俺を心配そうに見つめていたが、やがて俺の腕を引いて俺を立たせた。
「先生、一乃がだるそうなので保健室行ってきます〜」
「名前だけで大丈夫か?」
だいぶぐったりしている俺を見て、先生が心配そうにそう名前に尋ねた。たっているのが辛い。足元がふらついている。



「大丈夫です」
名前がそう、きっぱりと言って俺の手を引いて教室を出た。情けないけれど今の俺は名前に頼るしか道がなさそうだ。少し楽になった時に目を開けると保健室の仕切りのカーテンがヒラヒラ揺れて見えた……保健室までの道のりをいまいちよく覚えていない記憶がとびとびで、廊下を歩いているときに見慣れたポスターを見た気がするが、捏造されたものかもしれない。名前には俺は重かったのではないだろうか。きっと、体重を預けてしまっていたと思うし。
「名前?」
体を起こして、名前を探す。心細いとか寂しいとか、馬鹿みたいに情けないことを思っていた。俺は今弱っているから、と言い訳は今誰にも言えないけれど自分を納得させるための手段には使えた。



「一乃、大丈夫?寝ていたほうがいいよ?体温計あるから、計ってね。あんまり熱高いなら早退してね」
カーテンの向こう側にいたのだろう。名前がカーテンをめくって隙間から、体温計を渡した。俺は手に取って脇に挟んだ。冷たい金属が触れて俺は不快感を表しながら、音が鳴るまで待つ。数分待った後にピピピ、と小さめの音が聞こえてきて体温計を取り出した。
「……げ、三十八……」



意外と高熱だったらしい、俺が呟いた控えめの声は名前にも聞こえていたらしく「はい。早退決定ね」とキッパリと告げた。三十七で終わっていればこのまま名前といられたのだろうかと心細くなった。あああ!もう絶対に風邪のせいだ!そうに決まっている!
「……名前その、帰るけれど、」
「けれど?」
「もう少し、傍にいてほしい……」
名前が俺の熱を帯びた体をギュッと包み込んだ。
「いいよ、帰りは一人で帰れる?迎えが来ないなら私が送って行ってあげるからね」


  


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