光良を看病する 夜桜の看病にやってきたというのに、夜桜が離してくれなくて困った。ゴミ箱に積まれた使い終わったティッシュの山が崩れた。鼻が真っ赤になっていて、痛々しいし、咳もたまに出ているから、薬を飲んで欲しいとは思っているものの「どこにも行くな……」と元気のない声で、服の裾を掴まれて見上げられてしまえば、身動きを取れなくなる。潤んだ瞳に、私を映して目を閉じることも無い。眠ればいいのに、名前がどこかへ行くから、嫌だ。って言って寝ようともしてくれない。 「夜桜、離して?薬のもう?ね?」 と優しく諭すといやいや、と首を横に振る。 「名前が傍にいてくれればいい!ケホッ、飲まなくてもへーき」 全然平気そうに見えないのに、強がりかなんなのか、同じセリフを繰り返す。夜桜の額に手を当てて、体温を確かめる。未だに微熱が続いているのか、自分より高い体温に眉を下げた。 「早くよくなってほしいから、飲んで欲しんだけどなぁ。絶対に帰らないから。ね?離して?」 「むー……、わかった」 納得はしていないとは思うが、それでも夜桜が名残惜しそうに手を離した。自由になった身で、薬の置いてある場所に歩いていく。夜桜がジッと瞳を逸らさずに私を見ていた。なんだか、やりづらいなぁ、と思いながらも薬の錠剤を数錠と水を半分ほどコップに注いで夜桜のもとに戻る。 「はい、夜桜飲んで?」 「名前飲ませて」 体を半分ほど起こした、夜桜に渡した薬を突き返された。飲ませるってどうやって。って嫌な予感を交えながら問うた。 「口移しすればいいだろ!」 「私にまで移るでしょ!夜桜を蝕んだ菌とか強力そうで嫌だよ!」 「……ぅー、名前俺のこと嫌い?だから、意地悪するの?」 「違うよ。治ったらいくらでもするよ」 だから、飲んで。と薬を手のひらに乗せた。コロコロ転がして遊んでいた夜桜が「わかった。飲む」と素直に口に含んで水で流し込んだ。ゴクリ、と喉を通って行ってまた、夜桜が体を横たえた。夜桜の体の上に毛布を優しくかける。 「約束な。治ったら、いいんだろ?」 「うん」 早くよくなってね。 ← 戻 → |