喜峰



!死ネタ



本当は知っていたことだった。悲しみよりも先にやってきた、「ああ、やっぱりな」という感情に嫌気がさした。俺はわかっていた、名前がいなくなることを。だって、俺は名前を救うに値する人間でなんかなかったから。名前はいつも辛そうなこの世の終わりのような顔をしていた。刻む言葉はいつも諦めの言葉だった。名前はいなくなってしまった。ある日、聞いた言葉を思い出す。
「……いつか終わりが来るから私は大丈夫。辛いことも、悲しいこともすべて」
笑った。その時もうすでに決めていたのかもしれない。これから起こる、すべての事柄を。終幕を。俺は、言ったんだ。気休めでも、何でもよかった。名前を救いたかった、この手で守りたかった。
「……俺が、俺が必ず名前を救ってやるから」



ちっぽけな俺に何ができるというんだろう。今思えばとても、浅はかだったのに。名前は笑った。「有難う」って俺の言葉に対して小さくお礼を述べて、空を仰いだ。まだ、責めてくれればよかったのに。俺に救えるわけがないって。あの吹っ切れたような笑顔が忘れられない。名前がいなくなってから届いた、俺に宛てられていた一通の手紙は名前が書いたものだった。しばらくあける気が起きずに、放置していたものを今日、開けてみた。中には簡素に「有難う。私は、あの時の岬の言葉が嬉しかった」とだけ書いてある小さな紙きれが出てきた。他に文字は書いていなかった。



内容を見てようやく悲しみが追い付いた。ポタポタ、涙が手紙に落ちて名前の字が滲んだ。ああ、知っていたとも。現実味が沸かなくて、救えなくて、それでも、彼女を愛していた事実なんて。俺は名前を救えなかった。子供の俺には名前を救う術なんか知らなかった。名前を支えられるほどの力も持ち合わせていなかった。結果的に名前はいなくなってしまった。名前は最初から知っていたんだろう。俺が名前を救えないことも、死が自分にとっての救いだということも。ねえ、俺これからどうしたらいいんだ、名前……。ごめんな、救えなくて。



弱な僕らには、それしか残されていなかった。


  


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