毒島に看病される



昨日は僅かに喉が痛む程度のレベルだったのに日を跨ぐ頃には弱り果てていた。目を覚ませば、世界が僅かに歪んだ。今日は親が休ませてくれたらしい。ただ、風邪が移ると面倒だから、と私の部屋には滅多に来ないが。僅かな心細さが胸に残る中、携帯に目を通せばもう兼真も部活を終えているであろう時間になっていた。重たく熱でぼーっとする頭をずらして、瞼を閉じると遠くからチャイムの音が聞こえた。



数分もしないうちに誰かが、私の部屋のドアを軽くノックして入ってきた。お母さんの顔がニヤついていて彼を通した後に、ドアを閉めた。
「おっす!って、だいぶ弱ってんなぁ……予想以上の衰弱ぶりだぜ」
「……部活帰り?」
「そそ。プリントのお届けにあがりました。ほーら、宿題がたんまりあるぞー」
鞄からファイルを取り出して、何枚つづりにもなっているプリントを私の顔の上に乗せた。そんなもの受け取りたくなくて、兼真に突き返してやると笑って私の机の上に全部置いた。別に望んでいないし、いらないのに。
「……それを持ってお引き取り願おうか。なんか体寒いし、死にそうだよ」
「よーし、俺が脱いで人肌で温めてやろう」
自分の万能坂指定のジャージの上着に手をかけて上着を脱いだ兼真の手を制した。
「嫌な予感がするからいい。脱ぐ必要ないじゃん」



「まったく名前は冗句が通じねーなー」
素直に自分のジャージの上着を着なおす兼真はケラケラ笑っている。冗談なのはわかるのだが、衰弱している今はその冗談に乗ってあげる程元気もない。
「それより、まったく逆の方角の兼真より私の家に近い子がプリント持ってくるんじゃなかったの?」
当然の疑問を口にすると兼真が今までチャラけた態度をやめて、言いにくそうに視線を外した。兼真の態度が珍しくてキョトンとしていたら兼真がやけに神妙な表情で「笑うなよ?」と念を押した後に、照れたようにはにかんだ。
「……確かにお前の家に近いやつが持っていくはずだったんだけど、そいつが男で俺が嫌だった。あと……お前の様子見に来た」



兼真の様子があまりにも可愛くてぷっ、と小さく笑うとそれに気が付いた兼真が口を尖らせて不貞腐れた。やっぱり、言うんじゃなかったなぁ……ってぼやいている。
「笑うな、って言ったじゃないか……。なんで笑うんだよ」
「兼真も可愛いこと言うんだなーって」
「……元気になったら覚えておけよ。その言葉、後悔させてやるから」


  


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