光良に看病される



「名前っ!お見舞い来た!今日は俺が看病するからな!あははははっ!」
元気に私の部屋に押し入ってきた夜桜。気持ちは嬉しい、非常に嬉しい。だけど……夜桜の場合看病すると、余計に悪化してしまうんじゃないだろうかという不安が脳裏を掠めた。親は何故平気で、この子を私の部屋に入れてしまったんだろう。……嫌、多分私の彼氏だからなんだろうけど……それにしても、あまりにも軽率ではないだろうか。
「……ふふふー、名前が休みだったから今日は部活抜けてきた!」
「ぶふっ、ゲホゲホゲホッ……!よく、怒られなかったね?!ゲホゲホッ!」
吹き出したせいで、ただでさえ酷い咳が余計に悪化した。
「んー、なんか行ってもいいけど、余計なことはするなよって言われた。俺、余計なことしないのに、あいつ失礼だろ!」
夜桜が鞄の中に詰めていただろう、大きめの袋を出して私の勉強机の上に置いた。



「それ何……?」
やけに量が多いけれど、と袋の中身を心配そうに尋ねると夜桜が目を細めて、
「あはっ、名前のために買ってきた!うん、と……ゼリーとプリンと……あとなんだったかな。忘れた!でも、多分食べられるものだ!」
「よ、夜桜……。有難う……」
少しでも悪化しそうとか思った自分が馬鹿だった。夜桜は優しい良い子だった。熱のせいで涙腺が脆くなっているのか涙ぐみながら夜桜を見つめた。でも、その量は食べられないかもしれない。ごめん。いくつか出している夜桜が「今、食べるか?」って聞いてきた。
「……ん、そういえば、今日何も食べてないかも……」
と思い出したように言って乾いた口がそれらを欲していることに気が付いた。夜桜が「……そっか!じゃあ、食べたほうがいいな!俺が食べさせてあげる!きゃはははっ!」って笑いながら蓋をあけて、スプーンですくった。



「はい、アーン!」
上体だけを起こした私の口元に掬った大きめのゼリーを近づける。
「……え、あ。いや、自分で食べられっ、むぐっ!」
私の意見は求めていないのだろうか、口を開いて喋っている間に私の口にスプーンを突っ込まれた。諦めてゼリー飲み込む私。程よく冷えていて簡単に喉を通って行った。
「美味しいか?ははははっ!はい!」
また、適当に大きめのゼリーをスプーンに乗せて口に近づける。もう、恥ずかしいけれど夜桜に食べさせてもらおう。どうせ誰も見ていないんだし……と口を開く。何度か同じ行動を繰り返していたらゼリーを一つ完食したらしく空いた容器を机の隅に置いた。


「んー、あとはー、暖かくしてー水分だろー……?んーどうしたら治りが早くなるんだ……?……ん?あ、風邪はうつせばいいんだ!あはははっ!俺、名案!」
布団をぐるぐると私に巻きつけさせていた夜桜が何かを思いついたらしい。私に抱き着いて顔を近づけた。
「俺に移せばいい!早く治るといいな!名前!」
「え、ちょまって……!」
「んふふふふふふ!だいじょーぶ。俺がちゃーんと看病するからな!」
私のカサカサになってしまっていた唇に潤いを与えるようにペロリと舐めて口づけた。やっぱり、嫌な予感は的中するのか。


  


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