喜峰



二つきつく握られた、拳を差し出された。名前はニコニコ笑って、「どっちかにお菓子が入っているの。当てられたらあげる」って言った。名前は気まぐれでこうやって、たまに俺に物を与えて、餌付けするのだ。俺はそれにまんまと嵌っている。名前にはその気がなくても俺は、確実に名前に嵌りこんでいた。俺は二つの拳を見比べて触る。物が入っている確率は理論上、二分の一だ。だけど……俺は多分あたりを引く気がしていた。
「こっちにする」



右の手をトン、と軽く押すと名前はにっこり笑って、拳を解いた。いつも、俺は当たりを引くらしい。今日も、当たりの方を引いた。名前の手の中には小さな包装紙に包まれた飴玉。
「はい、正解。じゃあ、この飴ちゃんは岬ちゃんに進呈しよう。どうぞ」
「……有難う」
飴玉を取ると、未だにきつく握られたままの左手をポケットに突っ込んだのを確認した。
「そっちには何も入ってなかったのか?」
俺が尋ねると、名前が「うん」と答えた。怪しいなぁ、と怪訝そうに顔を覗き込めば「本当だって、ば」と困ったように顔を逸らした。



「……本当はどっちとも入っていたんじゃない?」
いつも思っていたことを口にすると名前が、瞳を一瞬だけ伏せた。長いまつげが、揺れる。それから、「……うん。いつも、ね」とはにかんだ。俺の予想は的中したらしい、ただ……なんでそんなことをしていたかまでは俺には理解できないけれど。
「岬ちゃんは勘がいいなぁ」
「流石に運が良くても毎回必ずってことはないだろ?」
「……うーん、そうだね。じゃあ、岬ちゃんには特別にこれもあげる」
先ほどポケットに突っ込んでいた手をもう一度ポケットに突っこんでまさぐる。飴を探り当てたらしく、ポケットから手を出すとちょこんと手のひらに飴を乗せる。
「思うんだけど、なんで俺に毎回くれるんだ?」
ふと、沸いた疑問を口にする。
「……岬ちゃんにあげたいからだよ。だって、岬ちゃん嬉しそうだから。お菓子好きなんだね」



反応としては間違っていないのかもしれないけど、微妙に解釈は間違えている。俺が嬉しそうっていうのは強ち間違いではないが。……お菓子じゃなくて名前が好きなんだけど。……勿論そんなこと言えるはずもなく、俺は手のひらの飴をつまんだ。「有難う」って言いながら。



念、初めからはずれはないんです。


  


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