磯崎を看病する



「おせぇ」
偉そうに布団からひょっこり顔を覗かせている磯崎に少しいらっと来て磯崎の頭を軽く叩いた。「いてぇ!ふざけんな!病人相手に!」と大して痛くも無いくせにオーバーリアクション気味に痛い、と訴えてくる磯崎を無視して先ほどお見舞いにと購入してきたばかりでまだ、冷たいプリンを机に置いた。
「おい!無視するな!」
ポカッ、と叩き返された。これで、病人とか嘘だろ。嘘だと言ってくれよ。なんでこう彼女に対しても、乱暴なのか。デレはあるのでしょうか。否、無いな。普段からツンツンしているし、たまーにしかデレてくれない。正直、心が砕けそう。
「風邪引いたから、うちに来て欲しい。とかメール寄越したくせに元気じゃない」



てっきり、もっと弱りきっているのかと思った。と付け足して、磯崎を睨みつける。今日は友達と遊ぶ予定だったのに。
「……ゲホゲホ」
「わざとらしく咳とかしなくていいから!どうせ、もう殆ど熱ないんでしょ」
わざとらしく咳を数度する、磯崎には呆れて果ててもうこれ以上コメントも出来ない。とはいえ、移されたくないからそろそろお暇しようか、と思う。磯崎よりも丈夫ではないため移されれば長いこと、床に伏せていなければならない。


「……今、来たばっかりだろうが」
私の腕を掴んで、何処か気だるそうな瞳で見上げる。言葉を詰まらせた後にその手には乗らないぞ、と心を鬼にして振り払おうとする。
「だって、割と元気そうだし」
「……、薬がきいてきたんじゃねぇか?」
「なんて、白々しい」
にわかに信じがたい磯崎の軽い発言に失笑してしまった。スルーしてやってもよかったが、あいにくスルースキルはあまり高くない。お見舞い品も献上したし、そろそろ帰るわ。というと途端に先ほどまで威勢の良かった声がしおらしくなった。
「……帰るなよ」
「え」と思わず変な声を出してしまった。だって、いつもの磯崎らしくない声だったから。思わず動きがとまってしまった。



「風邪とかひいたら少しは名前に優しくしてもらえるか、って……」
それだけ言うと羞恥心が遅れてやってきたのだろう、ハッとして布団の中にすっぽりと顔を隠してしまった。未だに動揺を隠せない私はとりあえず磯崎から布団を引っぺがして、磯崎を確認する。磯崎は「触んじゃねぇ!!」とか間抜けな声を上げた後に手で顔を覆って、ベッドの上で器用に丸まってしまった。
「……もう、帰ればいいだろうが!帰れっ!」
風邪を引いても相変わらず罵詈雑言の嵐な磯崎の顔から、手をどけると案の定真っ赤になった磯崎がいた。不貞腐れているようだった。どうやら、磯崎が私を呼んだ理由は優しくしてもらいたかった、とかそういうくだらない理由だったようだ。意外と可愛いところあるんだ。と微笑んでいたらまた、殴られた。真っ赤になって殴るから今度は許せた。
「帰らないから、機嫌直して?磯崎ってば、可愛いじゃん」
「可愛いとか言われても嬉しくねぇ……」
口を尖らせている磯崎に布団をかけなおして、傍に腰を下ろす。
「何か食べたいものある?今日は看病してあげるよ。」
「名前、……その、」


有難うな、という言葉が聞こえたような気がする。風邪とはかくも人を変える物なのか?


  


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