光良



!少し気が触れた。



夜桜の愛情表現は可愛く思うのだが、随分と幼い。人がいないときや、お互いの部屋にいるとき、いつも笑いながら「好きだよ」って何度も何度も、囁くように言う。それから、ギュと強く抱きしめながら、啄ばむようにキスの雨を降らせる。私もそんな夜桜が大好きで仕方が無い。たまに依存されているのではないだろうか、と思うのだが突き放したりすることは出来ない。



「ふふ、あははは、好きだよ、好き。名前、大好きだよ」
いつものように稚拙な愛を紡いで、キスをする。ただ、私は不安に駆られることがある。夜桜は好きだ、と言ってくれる。夜桜の精神は少し脆いし、たまに気が触れたように笑い転げているけれど、顔は可愛いからきっと、一人になることはないだろう。だから、私よりいい子を見つけてしまえば、きっと私は捨てられるだろう。そのとき私は、夜桜を諦めきれるのだろうか。夜桜は私にやってきたことをその彼女にするんだ。幼い愛情表現を彼女に差し出して、キスをして、それから……それから……。ああ、こんなこと考えたくなんかないのに。私は思っていた以上に夜桜に、心を持っていかれている。



「……あはは、名前?名前……?どうしたの?」
「あ……?ご、めん。ちょっと、考え事していた」
「……何?俺以外のこと、ねぇ、誰?誰のこと?俺以外の男のこと?ねぇ、どうして?俺のこと嫌いになったの?何で?」
先程まで笑っていたはずの夜桜の顔から笑顔が消えうせた。睦言の変わりに出てくる言葉には、狂気のようなものが含まれている。私は一瞬「ひっ」と悲鳴をあげたが、直ぐにまた、キスが降りてくる。キスが途絶えたときを狙って、必死に言葉を繋いだ。このまま、誤解をされたままだと色々やばい、と本能が訴えかけていた。
「ち、が……。夜桜のこと、だよ」
「……あはっ、俺?」
夜桜の目は据わっていて、怪訝そうに眉をひそめていた。
「そうだよ」



「なんか、名前不安そう。俺、なんかした?」
「ううん……夜桜が好きすぎて、辛いの。夜桜に捨てられたくない」
「あーっはははははははは!ひひひ、ははっ!何を言うかと思えば!俺のほうが好きだよ!」
夜桜が爆笑しながら、好きだよ好きだよ。と先程のように呟いた。それから、何かを思い出したように動きをぴたりと止めた。
「ああ、だから、名前が、ふふ……浮気したら俺、あは、ふふうふふ、名前のこと殺しちゃうかもしれない。それくらい、大好きだよ。」
私の背中に強く爪を立てた。ああ、夜桜に愛されて殺されるのならば、本望かもしれない。彼の愛は本物だ。



者の睦言


  


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