佐久間



先程からずっと忙しなく鳴き続けている蝉の鳴き声とは、対照的にぐったりとソファーにもたれかかっている俺たち。この銀色の長い髪の毛が煩わしく感じられた。蝉の鳴き声は、煩いほどに町中に響き渡っている。蝉の命は成虫になってからは短いらしい。蝉がピタリと鳴きやむまで、俺たちはきっと衰弱しているだろう。
「暑い……。死んでしまう……」
肌に纏わりつく服も髪の毛も煩わしくて仕方がない。日本の夏というのはどうしてこうも
蒸しているのだろう。頭の中は沸騰してデロデロに脳みそが溶けているから、何も考えられない。彼女がにっこりと淡く微笑む。俺と同じように衰弱している。夏の暑さのせいだ。
「佐久間〜……スイカ食べる?冷やしてあるよ」



スイカ……?スイカかぁ……。冷やしてあるのならば、少しは元気を取り戻せそうだ。このままだと夏ばてにでもなってしまいそうだ。俺が「食べる……」って言うと彼女がふらふらと覚束無い足取りで台所のほうへといってしまった。俺が行けばよかったと少し経って、後悔した。本当、頭がどうかしているらしい。普段なら、ちゃんと回っているはずの頭も何も考えられない。少しして彼女が切りそろえられたスイカを皿に乗せて戻ってきた。



「はい、どうぞ」
彼女に促されて、真っ赤に熟れたスイカにかぶりついた。本当に先程まで冷やしていたのだろう。随分と冷えていて美味しい。俺は口に広がるスイカの甘みと冷たさにようやく、元気を取り戻し始めていた。急に視界が鮮明になる。目の前には薄着の彼女。うなじに伝う、汗の雫。暑かったとはいえ、こんな美味しい状況が目の前にある。スイカの甘い加重でべたべたになった手を彼女に伸ばす。彼女が大きなこげ茶色の目を見開く。
「へ?」
「……元気になったから、今度は……お前のこと食べていい?」
「まだ、昼だよ?というか、暑いよ?」



ああ、その辺は大丈夫だ。蝉の鳴き声が全てをかき消してくれるから。


  


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