私たちは女の子同士なのによく馬鹿な事をしあう。それは果てのない事で縺れるメビウスの輪に似ている。ぐるぐる同じことをしては、模範回答の無い答え合わせをしているのだ。「ささ、葵ちゃん。どうぞ」例のあの車に、乗車するときにレディーファーストと言わんばかりに紳士じみた事をしてみると葵ちゃんも同じように「何言っているの、名前ちゃんも女の子でしょう」っていって私の見よう見まねで、同じことをして先に乗せてくれようとする。何故お互いにこんなことをするのかは私には計り兼ねているのだが、私は葵が好きで少しでも意識してほしいからこんな馬鹿げた紳士ごっこをしているのだ。お手をどうぞ姫様、なんて事できなくてもこうしてふざけた形と成っては出来ることもある。クスクス笑う声が聞こえた。葵ちゃんは笑っている。「早く乗ってくれないか!」ワンダバの呆れたような怒気を含んだような声が聞こえた。さっさと乗れと言いたいらしい。時間は刻一刻と迫っている、そんなの言われなくても私には理解できていた。



「いっせーので乗れば同じことだよ名前ちゃん」いっせーのと言う声がして、私は仕方なく同時に足を踏み入れた。あーあー、私は葵ちゃんだけを特別扱いしたいのに、なぁ。絶対に内緒だよ。言えないから。その辺の男よりも、ずっと紳士的なお面をつけていてあげるから、だから少しは私の事を見てほしいの。いつまでも真昼の月は、見つからない様に息をひそめるように、私はこっそりと葵ちゃんの傍で息をしていたい。酸素を作り出す植物に似ていて、私はそれを二酸化炭素に変える。「私、名前ちゃんとのやり取り好きだなぁ」ポツリとまるで長い小説を読み終わった後のような、少しだけ溜息交じりの愛らしい声が鼓膜を震わせた。「私も私も」普通の友達の位置より近い距離なのだ。それが、もどかしくて歯がゆくて私は好き。



「昔、名前ちゃんがしてくれることの多くを夢に見て来たから、ちょっとどきってする時あるの」隣に座っている葵ちゃんが照れて、少しだけ朱色に染まった頬を隠すように話してくれた。「あー、わかる。理想の男性像っていうの?」「そうかも。だけど、名前ちゃんも女の子でしょう。だから、それを押し付けるのがなんだか躊躇われちゃって」別にいいのにというか、進んでそれを演じている身としてはなんだか複雑な心境に成ってしまった。葵ちゃんが言うなら、女らしい所全て切り捨ててもいいのにな。「実際、少し特別なんだよ、葵ちゃん。だって、私無差別にあんなことしないもの。葵ちゃんだけだよ」茜ちゃんにも水鳥さんにもあんなことをしたことはない、他の女子に求められても恐らくは私は実行しないだろう。詰り、私は葵ちゃんを特別視しているという事。種明かしなんてのは、後からしなくちゃ面白みがない。


ちょっとだけ、紳士ぶりたいのです


  


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