光良



辛いなら目を瞑ればいい。強くギュッとつぶって、光すらも拒絶すればいい。「……君」聞きたくないのならば耳を塞いですべてを遮断すればいい。隣で見ていたいと思っていた彼の笑顔も、嬉しそうな笑い声さえもすべてを遮断して、無かったことにすればいい。何が一番傷つかない方法かを私は知っている。私自身が一番知っている。「磯崎君」涙が出てきても、悲しくないって言い聞かせ続ければきっと嘘が本当になる。私はそう信じてきたのだから、きっと真実をひっくり返せる。そうだよね?嬉しそうに笑う彼女の顔も、磯崎君の顔もぼやけてきて判別できない。



それでも、理解してしまうのは。私が誰よりも磯崎君を好きだからだ。そこだけは譲れそうにもない。「馬鹿だな、名前。あははははっ!」光良君の爆笑が耳をつんざいた。ああ、馬鹿なのは知っている。「……そうやって塞ぎこんで事実から背けても、事実はいつだってそこに存在し続けるのに」「わかっている。わかっているよ」これが逃避であり、やがて直面する事実は揺るがないことくらい私は知っていた。光良君は狂人だけれど、たまに誰よりもまともで、正論を口にする。それでも、皆、光良君の頭が少し可笑しいと思い込んでいるから、まともなことを発することを知らない。皆、彼のことは気が触れた人間だと思っている。「んふふふ。だよなぁ!いつまで逃げるんだよ、いつになったら「やめて!」



呆気にとられたように、言葉を失った光良君がニィと目を邪悪に歪ませた。その瞳には嗜虐が宿っている。光良君は最初から自分の投げかけている言葉の意味をわかっていて言っているのだ、酷い人。なおも追い打ちをかけるように発言する。「……アッハッハー!なあ、現実を見てよ。いつまで塞ぎこむの?なあ!」「私の心が癒えるまで」「いつ?」そんなの予定にあるわけでもないこと、気持ちの問題なんてわからない。メンタルの問題なんて一番、よくわからないのに。不確定要素。いつだなんて明確に言えないに決まっている。光良君の瞳を見つめると誰よりも澄んでいて、誰よりも綺麗なガラス球をしていた。もう、何も聞きたくなくて、見たくなくて。目を瞑って耳を塞いだ。そうして、光良君を拒絶した。「……、わかんないよ。そんなの」「そっかー。ははっ、ははははははははっ」



耳を塞げばいい、見たくなければ目を閉じればいい。辛いことも何もわからない世界に行きたい。私に優しい所へ行きたくて仕方がない。現実から目を背けて、耳を塞いでいた手を光良君に掴まれた。依然、目は閉じたままで。「……でもさぁ、俺、名前の心の傷癒えるまで、待てないかも!くくっ、あははははははははっ!」目を開けて、ゆっくりと確認すれば今度は嗜虐の色が失せて泣きそうな大きい目をしていた。光良君が私を射抜いた。いつも、楽しそうに笑っている光良君の意外な表情を見て、固まった。「あはははははっ、ねぇ、どうして磯崎なの?俺だって、こんな現実見たくないよ。俺のこと見てくれない名前なんか、どうして、好きになったんだろう?俺も現実見ている。だから、名前もお願いだから現実見てよ。お願いだから、俺を見てよ……」真っ白で冷たい手が私の腕を離して、頬に触れた。私は知らなかった。


ージに描かれた美しい場所にて


  


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