宮坂



「暑いですねー」
パタパタと手のひらで自分に生暖かい風を送りながら、宮坂が鬱陶しげに琥珀色の髪の毛を後ろに流した。服を少しだけはだけさせると、服の下の焼けていない肌が露になった。露出させている部分は真っ黒に日焼けしている。宮坂は陸上部だから、肌が焼けてしまうのは仕方のないことなのだろう。
「そう、思うならさ……私に抱きつくのはやめて。暑い、死ねる……」
凄く鬱陶しいよ。と付け加えた。宮坂はそれに堪える様子も無く、体を密着させる。離れてあげようとか、そういう気は毛頭にないらしい。
「いやだなぁ。先輩ツンデレですか?」
「それ、意味違うから。違うから……本当暑いし、鬱陶しい……」
もう、反論する元気も無いのかぐったりとした虚ろな瞳を、宮坂に向けた。明らかに衰弱しているようだった。



「もう、それ本心じゃないでしょう。先輩ってばー……」
「本心だよ。心の底からそう思っているよ」
夏の暑さでばてて体力を消耗しながらも必死に宮坂から、離れようと身を捩って最後の力を振り絞る。宮坂がその様子に慌てて、腕に力を込める。
「ひ、酷い……離して。……死ぬ……!」
「酷いのは先輩ですよ!僕が嫌いなんですか?!」
むくれた宮坂が後輩を可愛がってくれてもいいじゃないですか!としょげた声色で纏わりつく。その行動が余計にわずらわしく感じているようで、身を捩る。
「後輩、可愛くないよ……。先輩に対して、後輩という盾を使って意地悪してくるから……」
夏の暑さでイラついたような口ぶりだった。意地悪なんてしているつもりないのに、と眉を下げて子犬のような濡れた瞳を向けた。
「違いますよ、僕先輩が好きだから……」
「ば……!?……私も好きだよ……」
その瞬間に室内の気温が微妙にあがったことを、二人は知らない。夏の暑さとは別のうっとうしい暑さだ。



最高気温!


  


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