豪炎寺



遅いね、って友達に言われた。何がって答えれば友達がニヤニヤしながら……豪炎寺君とさ。って笑いながら言われた。暈かされたけれど、友達が言いたいことはなんとなく伝わって私は慌てて、友達を黙らせるのに必死だった。恥ずかしくて、仕方がなかった。からかわれているということはわかるのだけど。慣れていない分、ダメージが大きい。私たちには私たちのペースがあるし、豪炎寺君は妹さんのこともあるわけだし……あまり、我侭を言って困らせたくないと思っていた。私は現状に満足している。不満は無い。欲を言い出せばきりが無い。底なしのような貪欲さ。足を掴まれてしまえば這い上がれない。



そりゃ、手くらい繋いだりしてみたいさ。一緒に居る時間だって、もっと長ければなーとか思うけど、ただの我侭に過ぎない。くだらない我侭に彼を煩わせたくなんかなかった。むしろ支えてあげるべきなのだ。気恥ずかしくて言えないし……なんて思われるか心配だった。茜色に染まった、夕日を見上げ豪炎寺君の練習が終わるのを待っていた。待つのは嫌いじゃないし……サッカーが好きだということも理解していた。
「練習、終わったぞ。帰ろう」
ぽんと一度、肩を叩かれて意識が戻された。「お疲れ様」笑顔を作って、鞄を持ち立ち上がる。数度埃を手のひらで、払うと豪炎寺君の隣に自然と並ぶ。長く伸びた影が、ゆっくりと寄り添う。私は、部活動をしていないけど、豪炎寺君のサッカーをしている姿を眺めているのが好きだった。必殺技を編み出す彼は、生き生きとしていて誰よりも格好いい。



会話はあまり無いけど、この空気が居心地悪いなって思ったことは一度も無い。普通は会話が無ければ焦ってしまって、居心地悪いと感じるのに。これは豪炎寺君だけだ。前を見据えながら、鞄を持っていない方の手をブラブラ揺らしてゆっくり歩む。ふ、と自分の手に何か暖かなものが触れ、包まれた。何事かを理解できずに自分の手に視線を落とすと豪炎寺君の手が、自分の手のひらに絡んでいた。心の準備とかそういうのは全然していなかったからドギマギしながら、振りほどくことも出来ず豪炎寺君の顔をまじまじと凝視してしまった。俯いていた豪炎寺君の顔が夕日に照らされてなのか、目の錯覚なのか朱色に高潮しているように見えた。


西日


  


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