てをつなぐ



恐らく前回


西野空に言われた、あの時は怒って出て行ってしまったが……冷静に考えてもっともな意見だと思う。時たま不安げに「私の事本当は好きではないんじゃ、」みたいな視線を感じる。その何とも言えない空気は恐らく間違っていないと思う。俺の経験上。俺は名前を不安がらせてしまっているのだろう。それは名前も俺と同じように好いてくれていると思えば嬉しい物なのだが、このまま名前を不安がらせてしまうのは不本意である。かといって簡単に手を出すのも嫌だ。出来ないけど、手も握れないでどうやって手を出せと言うんだ。難易度高すぎる。手を握るが最初の関門だし。……はぁ、情けなすぎて溜息出てきそう。



名前は俺の部活が終わるまで待っていてくれる。「今日の練習、終わり。皆、お疲れ様」と喜多が高らかに宣言したのを合図に皆「つかれたぁ〜。あー、おなか減ったぁ〜」「化身出すとだりぃなぁ、体力の消耗半端ないぜ……」「俺もおなか減ったな、西野空帰りどっか寄るか?」「じゃあ、俺も行くわ。小腹減ってやべぇ」などと口々に何かを言いながらてくてく疲れ切ったような足取りで歩いていく。勿論方向は部室で、俺も後続する。
「星降もくるぅ〜?」



西野空が不意に後ろを少し離れて歩いていた俺の方へ振り向いた。安藤たちもつられて、俺を一度見た。断片的に聞こえてきていた話を整理すると、単純にこのあとちょっと、どっか寄っていくけど俺も来るか?ってことなのだろう。俺は、待っているであろう名前のいる方向を見て確認する。「……いや、やめておく。彼女、待たせているから」と断る。西野空は興味なさそうに嫌味っぽく笑んだ。「ふぅーん、星降は爆発していいよぉ。じゃ、また明日ねぇ〜。たまには僕達と遊んでくれないとぉ、ぐれちゃうよぉ?あ、一番グレているのは星降かぁ」「はははははっ!言えているな!ま、校則ゆるゆるだしな!」「……煩いな、垂れ眉と焼き鳥」悪態をついても喧嘩は勃発しない。しても、なんだかんだで仲がいい。(と思うけど)隼総はシードだけど、此処になじみ過ぎだと思う。差別も何も起きないのは隼総曰く凄いことらしい。俺としてはどうでもいいけどね。



「末永く爆発してねぇ〜」「……爆発ってなんなんだ?星降は爆発するのか?なんか、怖いな」「……キャプテンは知らなくていいと思うぜ」「……同感、知らない方がキャプテンっぽい気がする」「なっ!なんでだ?!お、俺だって気になるぞ!」前の方で笑い合っている。確かに、知らない方が純粋で喜多らしいかもなー。と思ったので、喜多に聞かれたが敢えて無視しておいた。喜多が俺に無視されてしょげていた。是非そのままの穢れない純粋な喜多で居てほしいという俺なりの気遣いで、ささやかな願いなのに、しょげられるとか。俺が悪いみたいじゃん。



「名前、お待たせ。帰ろう?」「喜多君たちはよかったの?」「いいの。あいつら食って帰るって言っていたし、約束はこっちが先だ」それに、優先順位は彼女の方が上にきまっている。名前が俺の隣を歩く、しかし何とも言えない絶妙な距離感。今までの俺に対しての試練としか思えない。こっからどうやって手を繋ぐんだ?いや、待てよ。距離を詰めることがまず第一か。俺は自然にぽっかりと微妙に空いていた距離を詰めた。名前が気付いて俺に視線を移した。「……、あー……その、」「うん?」ああああ!不振がっている!やっぱり俺の挙動もどうかしているからだ。手を繋ぎたいと素直に言うべきか?いや、名前はきっと俺の事遊んでいた人とかそういう風に思っているから余計に不振がらせる気がする!もう自棄だ。誰かに笑われてもいいや。「……えーと、手、空いているから」



冷たくなった手を名前の手に、指に絡めた。俺、格好悪いな。って思ったけど、よくよく考えれば女と手を繋ぐこと無かったような気がしてきた。あれ?そもそも、今まで誰かに好きとすら言ったことないかもしれない。「あのさ、俺名前が好き」「どうしたの?」案の定、首を傾げられた。急に道の途中で言われたら確かに驚くだろうな。「いや、俺こういうこと誰かに言うの初めてだから。……名前に伝えておきたくて」サラッと言ったけど、後から恥ずかしさが込み上げてきた。名前が相好を崩した。「私も好きだよ」いい感じに青春しているな、俺。今までの俺を考えると笑えてくるよ。ていうか、実際昔の俺が此処に居たら多分俺の事、嘲笑していると思う。それでも、幸せだなって思えるから不思議。家に付くのが遅くなればいいのに。


  


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -