なかなおり



涙を目に一杯浮かべた、苗字が喜多を罵った。小学低学年レベルの罵詈雑言だがそれに喜多は顔を思い切り顰めた。喜多の顔には少し疲労が見える。「ばーかっ!ばーかっ!浮気するならもっと私にばれないようにしなさいよぉ!」「誤解だといっているじゃないか。何でそうやって俺の話をちゃんと聞かないんだ」はあ、と大きなため息をついて喜多が大きな切れ長の瞳を床に落とした。



「あんな可愛い子が男?!私を馬鹿にするのもいい加減にしなさないよね!大体、香宮夜って女の名前じゃないの!」少しだけよれたクッションを喜多に投げつけると、それを喜多は両手で受け止めてソファーに戻した。苗字は悔しそうに顔を歪めた。喜多は困ったように見据える。喧嘩の原因はどうやら喜多の浮気らしいがどうも、様子がおかしい。喜多は必死に弁解しているのだが、あまり苗字は話を聞いていない模様だ。「ばーか……。喜多のデコ、はげ、馬鹿、ちびっこ」「はげてない。あとちびって言わないでくれ、ちびって。これから、グーンと伸びるんだ。これから」やけに冷静に、落ち着いた声色で苗字をゆっくりなだめる。「喜多なんか……嫌い」「俺は好きだよ。……名前が嫌いでもね」苗字の傍に、腰を下ろしいつもならば、面と向かって言えないような台詞を言って俯いた。苗字に“嫌い”と言われたことが無かったからか、堪えているようだった。



喜多の様子に気が付かないわけではない。苗字も幾分反省したような、表情で喜多の肩に頭を乗せた。「……ご、めん。私も、好き」消え入りそうな程の微弱なものだったが、喜多には伝わったのか少しだけ、苦笑していた。「ああ」と頷いて、自分の携帯を取り出してカタカタと操作をする。そして、誰かに電話をしているのだろうか、少し応答した後に苗字に手渡した。「喜多の彼女さん?はじめまして?俺、星降香宮夜だけど。俺のこと女だって思ったんだってね?明日、空いているから喜多と一緒においで」相手の声は少し怒っているようでもあったがなんとか無難に対応して、電話を切る。そのあとに気まずそうに喜多を見つめた苗字はどうしたらいいのかわからないといった様子で言葉を詰まらせた。



「ご、ごめん。本当に男かもしれない。ちょっと信じられないけど、世の中にはあんな綺麗な人もいるんだね……?」「間違いなくあれ、男だから。ていうか、部活のメンバーの一人だからな」微妙に空いていた距離を戻して、苗字の腰を抱いた。事実星降は、れっきとした男で女ではない。恐らく苗字が言った浮気した女と言うのは星降の事だったのだろう。「少し反省してくれないか?……結構、傷ついた」「反省しています。ごめん、ピンク色の髪長い人……?」「ああ、姫と馬鹿にされるくらいにな」これで、わかっただろうと言う。苗字がこれで許してくださいと頬にキスをすれば顔を赤らめた喜多が笑った。


  


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