おるすばん



夜桜君の不安定率の異常さ。


「ほんっとーに大丈夫?!」私が最終確認のために夜桜に少しだけ強めに、尋ねると夜桜が茶目っ気たっぷりにあはっ!と笑って瞳を細める。「だいじょーぶ、大丈夫!だって、一時間くらいでしょ?俺だって、それくらい待てる!子供じゃないんだから!」名前はゆっくり買い物してきていいよ!って気持ちいいくらいの笑顔で言って、背中を軽く叩いて、いってらっしゃい!と玄関先で見送ってくれるものの、私は不安でいっぱいだった。普段の夜桜が夜桜なだけに、問題が起きる気がしてならないというか。はぁ、と重たいため息をついて、振り返ると夜桜はまだ、ニコニコ笑って私のことを見ていた。



コツコツ、アスファルトに足音を響かせながら少しだけ早めに歩く。私の不安はあれだった。夜桜はいつも私の後をついて歩く。まあ、それだけならばそこまで、問題ではないのだが。少し離れるだけで不安定に陥るのだ。だから、今日一人でお留守番させるということが私は不安で不安で仕方がなかった。ああ、子を持つ親の気持ちと言うのはこれに近いのだろうか……。私はまだ若いし、夜桜を子にもった記憶はないけれど。はぁ、と本日何度目か忘れた溜息をついた。



なんとか四十分程度で、用事を済ませることに成功した。ずっしりと重たい、袋をがさがさと両手に持ちながら家路を歩む。異変に気が付いたのは家の数メートル圏内に入ったころだった。家の近くに近づくほどに夜桜の高笑いが聞こえるのだ。「あーはははははっ、ははははっ!くくっ、ふふふふ!あああっ!!うぅ、あああああっ!あははっ!」ああ、嫌な予感がする。とっても近所迷惑なのもあるが……夜桜のことが心配だと、家の扉を乱暴にあける。扉を開けた先、玄関には夜桜がいて泣き笑いしていた。夜桜が驚いたように目をまん丸くさせたあとに、私に飛びついてきた。それを避けることができなかった私はそのまま玄関にしりもちをついてしまった。痛い!と叫ぶよりも先に夜桜の声が耳に入る。



「名前だ!名前っ!あはっ、帰ってきたぁ!よかった!俺、捨てられたのかと思った」グスグスと慟哭しながら、鼻水をすする音が聞こえた。「夜桜。ごめんね。やっぱり、一人にするべきじゃなかったね」「ふふっ、名前携帯忘れただろ。俺電話したのに全然でないから、名前の部屋一度、見てきたら机の上にあった」夜桜にそういわれて、私はズボンについていたポケットに手を突っ込んで弄る。そして、携帯が無いという事実に初めて気が付いた。「はい、携帯。あははははっ」と私が帰ってきたことで、安定しだした夜桜が携帯をくれた。「夜桜もしかして、携帯取りに行く以外はずっと、此処にいた?」



私が出来ればこの予想は当たってほしくないなぁ。と思いながら、小さな子をあやすように夜桜の背中を擦りながら優しく、諭すように聞くと夜桜が「……うん」と言った。渡された携帯を開いて一応着信を確認する。携帯はびっしりと夜桜の着信で埋まっていた。「名前?ごめんな。俺、やっぱり一人じゃ駄目だ。どうしよう」夜桜が、申し訳なさそうに眉を下げて私の首筋に顔を埋める。「今度は、一緒に行こうか」「……うん!」初めてのお留守番は失敗だけど、まあ、いいんじゃないかなって思う今日この頃。



おまけというか、もう一つのエンド。迷ったけど発狂している方を採用した。


じっくりと買い物を楽しんできた。正直、意味もなく爆笑したり笑ったりしているんじゃないだろうか、と不安に思っていたのだが幸いなことに笑い声も聞こえてこなかったので、きっとゲームか何かをしてちゃんとお留守番しているんだと私は安堵した。玄関を開けて「夜桜、ただいまぁ」控えめの声で帰還を告げた。それから、すぐに私は驚いて固まってしまった。



玄関先に夜桜が居て、蹲っていたからだ。しかも、出かける前にいた場所と同じ位置にいる気がする。気、なので……気のせいだと私は信じたい。俯きながら、壁にもたれかかっていて眠っているのか寝息が聞こえるだけで、何の反応もない。だが、このまま放っておくわけにもいかない。今時期、玄関先はとても冷えこむ。夜桜の頬に触れるとやっぱりひんやりと冷たかった。「夜桜、」「んぅ……」



いつもより少しだけ低めの呻き声と共に、少しだけ瞼が開いた。それから、私の姿を確認するなりまだ、眠たいのかぼーっとしていた夜桜の瞳が大きく見開いた後に、嬉しげに細くなった。「ああ……、名前っ!帰ってきたんだ、おかえり!あははっ!」夜桜が愛おしげに頬に触れていた、手を引っ張って私の存在を確認するように抱き着く。「夜桜、此処で待っていたの?」「うん!俺、名前の帰りここでちゃんと待っていたんだ!偉いだろ!」よしよし、と頭を撫でながら微笑を湛えた。夜桜が気持ちよさそうに目を細めて見上げる。「うん。でも、玄関は寒いから中に居なきゃ駄目だよ」「あはは、ごめんなぁ!」自分の体温を取り戻そうと、ぴったりくっついたまま離れない冷えた夜桜をそのままに袋を床に置いた。「風邪ひいちゃうよ?」「あはっ、大丈夫!名前に看病してもらうから!あ、でも次は俺も行く!留守番は、寂しいからもうやだ」



「だって、本当に詰まらなかったんだ。名前居ないし。俺、寂しかった」


  


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -