喜多海



毎年降り積もり雪の量には参ってしまう。北海道にいなかった頃は、雪は幻想的で綺麗で
真っ白で儚くて……それから、とても軽いものだと思っていた。全てはそう……私の脳内で美化されてしまった、雪だったのだ。実際、雪は積もればとても重たいし……。雪が屋根から落ちてくると、本当に危ないということが判明した。親はそれでも私に手伝えといってくるし、私もこんなことを親だけにやらせるのが忍びなくて手伝っていた。力に自信なんてこれっぽっちもないし、運動音痴でもある。ああ、冬の間だけ、沖縄かどこかへ逃げてしまいたくなる。現実逃避をしていても降り止まぬ雪に白い息を吐いて、またスコップを動かした。捨てても、捨ててもきりが無い。だから、この作業にも終わりが見えない。きりがいいところでやめなければ、永遠に終わらない。仮に終わったとしても、また明日降り積もるだろう。いたちごっこの様だった。
「冬なんてなくなれ……」



独り言のように呟いた、言葉。疲れて棒のようになってしまった足。悴んだ手に手袋越しに息を吹きかける。毛糸で作られた手袋は、少しだけ熱を伝えてくれた。だけど、あまりにも冷えていてセルロイドで出来たように動かない。
「へー。僕と会うのが嫌なんだべか?」
何処か抑揚の無い声が、背中越しに聞こえてきた。いつの間に帰って来たのだろう。今年は少し遅かったんだね、なんていいたいことは山ほどあったのに……先に出てきた言葉は「おかえり、喜多海」と味気なくそっけないものだった。本当は嬉しかったのに……。言葉というのはすぐに出てこないものだ。春も、夏も、秋も放ったらしにされていたのだから、会えて嬉しくないわけがない。ドクドクと流れてゆく血液が逆流するんじゃないかってくらい、驚き喜んでいた。いつも電話越しに聞こえる喜多海の声が今は背中越しに聞こえるのだ。



「……どうしたの?」
一言、言っただけで口を噤んでしまった私を不思議に思ったのか、喜多海が不安げに揺れる声で問う。ザク、と雪の山にスコップを突き刺して、振り向いた。ああ……やっぱり喜多海だ。
「いや、嬉しくって……。また、会えたのが」
さっきまで冬なんか滅んでしまえ、と思っていたのに……一気に冬が特別なものになる。喜多海は不思議な男だ。私は、彼が大好きでたまらない。
「うん、僕も……だって」





  


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -