黒裂



彼女を何かに例えるのならば、毒だ。それも中毒性の高い麻薬に似た毒で彼女に触れるたびにどんどんと彼女にのめり込んでいくのがわかるのだ。だが、それに抗ったところで何も変わらないことも存じていた。ことごとく思う、此処はぬるま湯の楽園のような所で名前は温かな存在でありながら俺を堕落させるのだと。誰かがそれを見て、嘲笑しようが俺には何の心にも響きやしなかった。深く鋭く突き刺してそこから毒を注入する、それでも俺は恍惚の表情で寧ろそれを望むのだ。



汗ばんだ手を伸ばして名前を求めた。母親を求める子供の様であった。名前は優しいので俺のこれをいつも受け入れてくれる。それから、抱きしめて何度も何度も望むままに優しいキスをくれる。「名前大好きだよ」好き、大好き、愛している。言葉で果たしてこの感情は表せられるのだろうか。でも、これ以上の言葉が存在しない。そのたびにもっともっと上の言葉もあればいいのに、といつも思うのだ。名前にのめり込んでいく、依存していく。心地よい音楽を鳴らして祝福を受けた身のように。「甘えん坊さん、今日のサッカーはどうだった?」胸を強く圧迫されるような感覚がした。



「いつも通りさ、何もかもが順調で聖帝の言うとおりに動いている」「そう」たおやかにそれだけ言って押し黙った。もっと声が聞きたいのに、黙って心音だけを響かせている。毎日のお祈りも、寝る前にも君の事を考えている。重たいよ、とチームメイトに言われたけれど名前が嫌がらなければ俺としては支障も弊害もないのだ。本当はこういう関係すら学校の規則で禁止されているから、おおっぴらには出来ないのだけども。俺の学校のそういうのはとても厳しいのだ。何故なら風紀や心を乱すからだとかなんとか。でも、俺たちだって思春期でしかも男なのだから当然の感情と言えば感情で抑制してしまうのはあまりにも無理がある。



首筋に噛みついて、名前に思いを伝えた。そうだ、言葉で言い表せられないからこそ行動がある。言葉には制限がある、勿論行動にも。だけども、名前に何分の一でもいいから伝われば俺はそれで全てが満たされるのだ、身も心も。「真命、っふ、あ」昂ぶるのは心か。やはり、彼女には中毒性がある。それは否定出来やしない事実なのだ。俺は嫌じゃ無い。例え、麻薬でもそれが呪われた制約でも俺は毒に飲まれていくのだゆっくりゆっくり体に蓄積してそれがいつか俺の全身を食い殺しても、それが運命なのならば、毒を愛した自分自身を呪いもせずにただ死んでゆくだろう。



イズン・ガール


  


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テーマ「人外ファンタジー」
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