光良



夜桜君は行動が幼くてたまに読めません。それでも、大抵は悪意の無く子供の様な純粋さなどを持ち合わせていると知っているので、私はあまり咎めません。しかし、これはどうかと思うのです。今日もお弁当を開けるなり“いただきます”も言わずに手を付けようとするので私は止めました。私の家は厳しく(特に父が厳格でした)、ご飯を食べるときは必ず手を合わせていただきますと言ってからじゃなければ食べてはいけないという決まりがあったのでつい、夜桜君の行動を止めてしまったのです。(夜桜君の行動は時たま目に余るのです)夜桜君はご飯を食べようとする手を、急に止められたことでキョトンとしていました。私が「ご飯を食べるときはいただきますって言わなきゃだめですよ」と言うと「厳しいー」と頬を膨らませて、不貞腐れながらもいただきまーすと元気に言って、箸を持って食べ始めた。



箸の持ち方も悪いらしく、バッテン箸になっているのですがあまりくどくど細かい事を言い続けると本当に夜桜君の気を悪くさせてしまうので、それはいいやと自分に言い聞かせました。今日の夜桜君のお弁当も、コンビニで買ってきたと思われる整ったものでした。夜桜君は朝が弱いので自分で作れないとぼやいていましたが、恐らく早く起きられても自分で作るという選択肢を選択しないんだと思います。そんな私の思いを知ってか知らずかバクバク食べていく夜桜君の胃袋はブラックホールにでも繋がっているんじゃないかというくらいの食べっぷりでした。「あれ?食べないの?」「いいえ、いただきます」私もそう言われてようやく箸を手にして手を合わせた。



今日は日差しも柔らかで温かく屋上で食べるには随分といい日でした。しかも、こんなに人気の屋上を二人きりで独占できるなんて珍しいにも程がありますね。こんな椿事中々ありませんよ。たまに、誰かが来るような気配はするのですが、何故か口々に何かをぼやきながら引き返していくのでとても不思議な日でした。夜桜君が早くも食べ終わったのか、空になった容器を最初に入れていたコンビニのビニール袋に入れてしまいました。私に注意されるのを恐れてか手を合わせて珍しく「ごちそうさまでした」と呟いた。やけに行儀正しい、夜桜君に嬉しさと同時に不安を覚えました。私も遅れて食べ終わりコーヒー牛乳を口直しにゆすぐように飲み込んだ。「ごちそうさまでした……」それから、手を合わせてプラスチックのお弁当箱を、丁寧に包んだ。



「あはっ、食べ終わったね!」夜桜君がようやく、自分の相手をできる状態になったと思ったのか嬉しそうに笑って私の体を抱きしめた。でも、それは不穏な事の始まりの合図だったのです。警鐘は鳴り響かなかったけれどそれは注意すべき事柄だったのです。「……いただきます」そう言って世界が倒錯した。真っ白い綿菓子がふわふわ空を浮かびながらゆったりと移動していました。それはじっと見なければわからない程の移動速度でした。視界の上の方に僅かに入った、屋上のドアノブが回った。だけど、それは回りきることなくガチャガチャと何度も入れてくれとホラー張りのまわり方をしました。やがて相手が諦めるようにぼやく声が今日初めて聞こえたのです。「なんだよ、鍵がかかってやがる」夜桜君の子供の様な笑顔が今日はちょっぴり、大人びて見えました。真っ当な大人になれるのでしょうか、私と彼は。


さあ、召し上がれ。


  


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