風丸 男の子の髪の毛のはずなのに、細い薄水色サラサラ絡まることもせずに私の指の隙間を通り抜けて行く。何度梳いても変わらずに、枝毛もないそれに嫉妬のようなものを感じた。 の間手入れとかはしているの?と聞いたら、あまり気にしていないといっていたのを思い出す悔しいけれど、自然のままでも風丸の髪の毛は流れるように美しいらしい。敗北感を感じる。私は、一応それなりに手入れをしているはずなのに。しょっちゅう絡まるし朝は爆発するし、枝毛を発見することだってある。いっそ、短く切ってしまったほうがいいのかもしれない。風丸の髪の毛が羨ましくて、少しだけ伸ばしていたけれど劣等感を刺激されるだけだった。張り合っているわけではないが、虚無感を味わっているのは事実だった。 「ずるいな、風丸は」 いつの間にか、ぼやくようにそんなことが口から出ていた。風丸が何の話だと、目を円らかにし数度瞬いた。 「……何が?主語がないが……」 唐突に脈絡の無いことを言われて、珍しく困惑している様子だった。風丸の、髪の毛を結いながら「だって、風丸の髪の毛のほうが綺麗なんだもん」と拗ねたように言うと風丸が「ああ……」と納得したように僅かに頷いていた。前に似たようなことを言っていたからすぐに私の言いたいことを理解したらしかった。 「俺は……お前の髪のほうが好きだな」 嫌味か何かかと勘違いしそうになってしまう、それでも風丸は楽しげに瞳を細める。 「そ……?だって、手入れしても風丸のようにならないんだもの。最近、ばっさり切ろうかなとすら思っているよ」 朝は爆発するしね、と付け足した。 「それは……勿体無いな」 さも残念そうに、苦笑する。ようやく、結い終わった私は名残惜しそうに一度風丸の髪の毛を撫ぜて手を離した。それを合図に風丸が「有難う」と言って立ち上がった。光を背に受けた風丸に目を細めて、私も立ち上がった。 シャンプーの香りを運ぶ ← 戻 → |