三途



俺の何処が良いんだろう。たまにそんな馬鹿みたいな不安が胸を掠める。最初は、そんな不安が掠める回数も少なかったというのに最近に至っては、しょっちゅうだった。身体能力は飛びぬけていいわけではなくて、勉強だって……成績優秀というわけでなく、寧ろ彼女のほうが、成績に関しては上かもしれない。流石に運動は、俺のほうが上だけど。ずっと長い時を悶々と考えていた。俺らしくも無いな。でも、仕方のないことだった。彼女ならば、俺じゃなくてもいい奴と付き合えただろう。苦しい。余裕が無い。切羽詰っているような、追い詰められているような、焦燥感。つりあう人間とはどんなものだろう。でてくるのはため息ばかりだ。焦燥感は消えない。彼女のことは好き。それは嘘なんかじゃない。



だから、別れたくないし……でも、縛り付けたくは無くてずっとぐずぐず逡巡していた。
「三途は、考えすぎなんだよ。私も三途が好きだから一緒に居るだけなのに」
もっと、信用してくれて良いのに。手酷いことをしたりはしない。あやす様に、諭すように抱かれる。何度も何度も聞かせてくれた、子守唄のような穏やかな声色、落ち着く。そのときだけ、焦燥感も不安も消えてなくなる。でも、消滅するわけではなくて一瞬だけ消えるだけにすぎない。次またいつ不安になるか、わからない。怖い。怖いものなんか、幽霊とかそういう類だけだと思っていた。間違いだった。体温は近いのに、俺が全ての体温を奪い去っていく。ずるい人間だ、俺は。彼女の全てを奪ってしまう。



顔を埋めて、彼女の背に腕を回した。だって、お前の好きより何倍も好きだ。拙い愛情表現なんかじゃ、表せないくらい大好きだ。気が狂いそうなくらいに好きだ。焦燥感も、不安も、愛も全てを与える存在。だからこそ……いつ突き放されるのか、お払い箱になるのか。それが怖いんだ。……もしも、そのときが来るのならば……せめて。



二度とお前を好きにならないように、突き落としてくれ。
そしたら、俺もこの腕を放すよ。


  


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