毒島



今日も兼真の練習を応援して、一緒に並んで帰っている。万能坂は長いけれど歩幅はほぼ同じで兼真が合わせてくれているという事は予想にたやすかった。私の歩幅は小さいようで向こうが合わせてくれない限りは男子と居ると小走りで追いかける羽目になる。別に会わせろと言っているわけではないし、私が遅いのが一番の要因なので私が合わせればいいだけの話なのだが兼真はそれをしない。私が遅い事を責めるわけでもなくただ、合わせて歩いてくれる。車道側を歩く兼真に声をかけた。「兼真って優しいよね」「あー?何だ、急に」何の脈絡もない会話に兼真が驚いたように一度、重そうな瞼を持ち上げて私を視界に入れた。私が兼真の視界を大幅に占領していることには然程気にすることなく、要点を伝えた。



「だって、いつも車道側歩いてくれるよね」現に今もそうだ。兼真が「はぁ?そうだっけか」と自分のポジションをわざとらしく確認して「おー、マジだわ」と気怠そうに鞄を肩にかけて、伸びをする要領で後ろに手を組んだ。兼真が車道側を歩くのは別に珍しい事ではなくいつもの、日常風景の中の一つに最早溶け込んでいた。それに気が付いてから何度か自分が車道側を歩いてみようと試みてみたのだが、結果は何度やっても同じで結局車道側が兼真の定位置になってしまっている。「万能坂もさっさときちんとした歩道をつけやがれってんだ。なんでいつまでもこのまま車道と歩道の境界線をきちんと作らねーんだかなぁ?」こんな、白線だけのボーダーラインじゃいつか本当に誰かがそれを乗り越えて事故がおきちまうぜ。それじゃなくても、世の中物騒だと生あくびをしながら呟いた。普段は、車どおりも少ないというのに珍しく一台の乗用車が少し飛ばし気味に、走り抜けていった。「あぶねーなー……」すぐに見えなくなった、乗用車の方角を睥睨して、悪態をついた。



こんな劣悪な状態だから、あの万能坂の途中にあるトンネルでよからぬ噂が立つのだろう。あんなところ、死んでも夜中に通りたくない。昼間でも鬱蒼としていて、あのオレンジ色の光がチカチカと怪しげでいかにもな雰囲気を醸し出しているのだ。夜中何てとんでもない。「ていうかさ、今更って感じ。俺からしてみれば」ようやく、乗用車の人を呪うのをやめてまたザクザクと小石や砂利を踏みしめはじめた兼真がやや不機嫌そうに言った。「何、今更って。前から気が付いていたよ」「へぇ、いつから?」純粋な興味と言うよりは挑発の意思がうかがえたのだが、敢えて知らないふりをして波風を立てなかった。「結構前から」「へー」興味なさ気な声色が反響したが、やけに引っ掛かった。本当に前から気に成っていたのになんだか負けた気がしてならなかった。言い負かされたわけでもないのに本当本当と呟くように毒島に言った。



「なんでこんな馬鹿げた紳士ちっくな真似すると思う」「イケメンアップを狙っているから」これを風の噂に乗せて、万能坂屈指のイケメンにと言おうとするとばーかと軽く冗談交じりに罵られた。「それじゃ俺がマジで紳士じゃねーか。俺そんなに優しくねーよ」くくっと笑って、言った。どんなに譲歩しても此処までする理由はないとの事だった。「俺って結構捗々しいんだぜ。自分の利益にならない事なんかしない」ま、全部冗句だけどなと言葉を濁したその先に兼真の本心はいくら探しても見当たらなかった。


チャンスは毎日!

  


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