幽谷



厨二病?妄想。と報われない相思相愛。死ネタ



馬鹿な女だ。そういったところで彼女は、別段私を批難するわけでもなく悲しむわけでもなく、ただ笑った。馬鹿な女だ。名前はいつも電波を受信して奇怪なことを言っては、私を困らせる。馬鹿な、女だ。そして、それを気にする私もどうしようもなく馬鹿だ。この世界には馬鹿しかいないんだろう。馬鹿で構成されているどうしようも無い世界。


「あのね、此処はね夢の世界でね実は幽谷君も私の創造物で、親も先生も、友達も皆皆いないの。でね……私も今は本体じゃないの。本体はね、きっと今は寝ているの」前も似たようなことを言っていた、名前は。前は、私たちは全て幻覚で、自分は、本当は植物人間なんだ。と笑っていた。最早哀れみの言葉すら、思い浮かばない。病気なんですよ、病気。可哀想に、厨二の病かはたまた精神を患ってしまったのですよ。でも、私の言葉に「そんなことない」と言って名前は笑っていた。幻想の私になんか耳を傾けない、と。私の気も知らないで、勝手なことをべらべらと抜かす。


「だから、ね。今から私は屋上から飛ぶの。目が覚めたら、何も覚えてないと思うの。長い長い夢だったのだもの。……だから、ごめんね」さっきから毒電波な言葉を垂れ流していると思ったら今度は自殺宣言ですか。本当に、本当に哀れな人だ。なぜ、生きるという選択肢を選ばない。私と共に生きるという選択肢はないのですか。「そうですか」私が短く返事を返してやると名前は目を細めた。「私ね、幽谷君のこと好きだったよ。私は帰るけど元気でね」屋上の風はとても心地よかった。普段は、先生が管理しているのだけれど今日は特別にあの女が、先生をちょろまかしてゲットしてきたのだ。そう、マスターキーと言う奴だ。よくもまぁ、そんなもの借りられたものだ。先生も少しは怪しんでくれればいいのに。……さらりと言われた告白に胸はまったくときめかない。これからの未来を描くことも無い。


「じゃ、そろそろ起きるかな。ばーいばい」そういって私に背を向けた。……と、思ったが直ぐに振り向き私に近づいた。もう、決意は揺らいだのか、と私は冷笑したが違ったらしい。私の前で止まって、そしてほんの少しだけ背伸びをして、私に触れるだけのキスをした。浪漫の欠片もない。ゆっくりと、唇を離して彼女は笑った。


そして、またフェンスに駆け寄っていった。フェンスをよじ登り反対側に行った。風ではためく、スカートの裾に気にするでもない。女子ならば、もう少しその辺気にしてみてはどうですか?名前はそれから躊躇うこともなく、飛んだ。……いや、飛んだというよりは落ちた、だ。人間は飛ばない、落ちるだけだ。数秒後、下のほうから鈍い音がした。誰かの不協和音が聞こえる。私には、それが何を意味しているかわかっていた。下を覗く勇気はなかった。どんな状態かなんてわかりきっていることだ。指で唇をなぞった。もう、ぬくもりは残っていない。冷ややかな風がそれらを全て全て奪い去っていってしまった。私の右目から何かが垂れてきた。何故なのか理由を知っていた。


本当、馬鹿ですね……。私も、貴女も……。でも、一番の馬鹿は貴女ですよ。


ースは欠けたまま


  


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