はぐ



研磨君は見かけによらずかなり純情だ。映画や番組でもそういう雰囲気の物になると急に無言で目を逸らすくらい苦手のよう。私はそういうのが好きなので、ちょっぴり残念。だけど、あんまり言うとしょげてしまうので言わないことにしている。彼は甘えてくるのも苦手みたいだ。やっぱり羞恥心とやらが勝っているらしくて二人きりの時ですら、躊躇っているようだ。なので、手をつなぐことはおろか、抱きしめてもらったことも無い。この間抱きしめようとしたら軽く避けられた上に、叩かれた。彼女に対して超暴力的で怖い……勿論冗談だが。そんなんだけど、告白してきたのは実は向こう。最初はびくびくして付き合っていたのだが、彼が純情で、実は可愛い人だと気が付いてからは怖くなくなった。「……おい」「……はい?」



私の瞳をジッと、あの冷たい瞳で見つめた後にフイと気恥ずかしそうに逸らして「……やっぱ、何でもねぇ」とだけ言ってソファーに沈みながら何かを言いたそうに見つめてきた。やっぱり何か用があるのではないかと踏んで「何か言いたいことがあるのですか?」と尋ねると「なんでもねぇって言ってんだろ」とクッションを強く抱く。クッションが羨ましいってどういうことだろう。世の中間違っているよ、色々と。ザァザァと雨の音にかき消されない程度の声量で「……雨、やまねぇな」とポツリと呟いた。そういえば、本来ならば外でデートの約束だったなぁと思い出した。ゴロゴロと低いうなり声に私は顔をあげてカーテンの隙間から外を見た。一瞬ピカリと光った後に地に低く響く雷鳴。



「雷ですね。研磨君」「…………」私の言葉に僅かに反応を示しながら、起き上がる。意外と近くに落ちたであろう雷に少し不安を覚えた。雷が怖いわけではないのだが、停電が心配だ。懐中電灯はどこにしまっていたっけ。最近、出番がなかったからきっと、暗がりで埃をかぶっているんだろうなあ。と溜息をついた。若しかしたらあまり出番がないために不貞腐れて懐中電灯は家出をしたかもしれない。「……はっ、なんだよ、雷が怖いのかよ」勘違いしたのか、研磨君が見下したように鼻で笑う。私は首を振った。事実、怖くはない。「怖くはないですよ。……あ、若しかして、研磨君怖いんですか?雷。人間だれしも怖いものの一つや二つ。いたっ!」雷が怖いのか、一年だしね!可愛いところあるなぁと微笑んでいたらぽかりと軽く殴られた。「んなもん、怖くねぇよ!馬鹿!でも、……そ、の。お前が怖くて無理しているだろうから、」言葉が途切れたのと同時に、研磨君の体温が近くなった。



「仕方ねぇから、こうしていてやるよ。雷の音遠くなるだろ?」……抱きしめられたらしい。研磨君の声が今まで聞いた中で一番近い。それにしても、今まで一度もしてくれなかったのに(頑なに拒絶されていたのに)と驚いて研磨君の顔を見ようとしたら「見るんじゃねぇ!」と怒られた。男心と言うのは今一わからない。


  


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テーマ「人外ファンタジー」
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