とっくん



きらきらとした瞳で、俺に教えを乞う名前に俺は息をのんだ。下手に出る名前はいつになく、従順で俺のご機嫌をうかがうような仕草が見られる。「お願い〜。磯崎君〜。必殺技私も欲しいんだよー」……だそうだ。必殺技って、あれか?サッカーのあれか?名前の足元と腕を見る。……細い。これで、必殺技使って骨が折れたりとかしたらどうしよう。「てめぇが必殺技覚えてどうするんだよ」一応、聞き出しておこうと思い名前に聞いてみると子供が興味津々な時に見せる純粋な目を瞬かせた。「だって、格好いいじゃん!私も磯崎君みたいに、必殺技できたらきっと、格好いいよ!」「……っ!うるせぇ!お前にはできねぇよ!」俺の口から出てきた言葉は可愛げのない、刺々しい言葉だけだった。名前がしゅんと落ち込んだ様に顔を曇らせた。や、やべぇ……格好いいという単語に動揺してしまった。勿論、俺が格好いいと言われたのではなくて、必殺技ということぐらい理解している。ただ、胸のときめきは止められない。



「じゃ……いいよ。夜桜ちゃんたちに教えてもらうから」俺以外の人名が出たときに俺は、思わず名前の腕をつかんで乱暴に引き止めた。「……!わ、わかった!教えてやるから!待て!」名前の明るい表情に俺は、「あ、しまった」と思った。が、時すでに遅し。名前はやる気満々らしく、サッカーボールを片手にグラウンドへと俺の手を引き出す。俺は手を振り払いながらも名前より先に歩く。広々とした、グラウンドを前に俺は溜息を気づかれないようについた。こんなことになっちまうなんて。サッカーボールを地面に置いて、名前にとりあえず蹴ってみるように言う。「えい!」ベシッ、鈍い音が響いて名前が蹴ったボールは宙を舞った。そして、ゴールへの軌道からずれ、見当違いの方向へ放物線を描き地面に落ちて弾む。それもやがて動かなくなった。「才能ないな」辛辣な言葉と憐みの目に名前が眉を下げた。明らかにがっかりというか、しょんぼりとしているようで俺も辛くなってきた。「確かに、ないかも。なんでこんなに逸れたのかな」



「……わかった、お前のコントロールは悪すぎる。シュート技はいったん保留だ。俺からボールを取ってみろ」俺がボールを器用に足でポンポンと蹴りながら名前に言うと力強くうなずくと、俺が蹴っていたボールを取ろうと、足を出す。サッカーを微塵にもやっていなかった名前と普段からボールを追いかけ蹴っている俺との差は歴然で俺から奪うことは叶わない。「……おっ、と。ま、運動音痴のお前にしちゃまぁまぁだな」「体育の成績四を目指しているんだ!」まあ、五は取れる気がしないな。あのコントロールの無さを見ていると。四と言っただけでも俺は褒めてやりたいね。出来ないけど。多分とっさに「お前なんかに取れるわけねぇだろ」とか言っちまいそうだ……。



名前は俺からボールを取れないがめげずに、仕掛けてくる。俺はまあ、普段野郎どもにするよりも、なるべく優しく、怪我させないように気を付けながら手加減していた。だが……その時、事件が起きた。名前が俺からボールを取ろうと、したはずみで転びかけて……そ、そのわざとじゃないんだが俺の腕あたりに柔らかいものが触れた。多分、いや、多分じゃなくて胸に触れたんだと思う。「!?」言葉にならない叫びをあげながら腕に残っていた僅かな感触に、全ての動きを止めた。名前は転びかけたもののなんとか体制を立て直して俺からボールを奪い取った。俺?俺は勿論、冷静でなんかいられなかった。動揺を隠しきれずに狼狽する。(正確には必殺技が)格好いい、と言われた時よりも心臓がバクバクいっているうえに、平常心を保てない。名前はあまりきにしていないのか、取れた!とはしゃいでいる。



「やったよ!磯崎君!……いそざきくん?」「…………っ!あ、っと……よかったじゃねぇか。まあ、俺は本気じゃねぇけどな」なんとか現実に戻ることができた後に、名前に「今日はもう此処までだ」と告げた。名前は「えー、まだ始めて少ししか経ってないじゃん〜」と不満げだったが。悪い……、今日はもうとてもじゃないが冷静に教えてやれる自信はない。俺も男だ、さっきのはやはり、ドキドキしてしまう。というか、ムラムラする。「あ、そうだ、忘れていたぜ。この特訓は高くつくぜ。そうだな、一万くらいか?」「え!お金とるの?!てか、たかっ!一万ってお年玉レベルじゃん!」名前が涙目で、俺に訴えかけてくる。最初から、好きな女から金を巻き上げる気なんて微塵にもねぇ。だけど、名前は本気でお金を取られると受け取ったらしい。顔を青くさせていた。「はらえねぇのかよ」「磯崎君、不良……」「うるせぇ!払えねぇってなら、体で払ってもらうぞ!」「ひぃいい!や、やめて!私まだそういうのはいや!」名前は怯えたように俺を涙目で見上げる。許して、と言っているようだった。



俺は残念ながら、優しくねぇんだよ。普段の俺のサッカーのプレイ見ていたらわかるだろうがよ。お前の体で払ってもらうぜ。「……おら、目つぶれよ」有無を言わさない圧力で名前を無理に従わせる。「うぅ、殺生な……」ブチブチぼやきながら、瞳をギュッと瞑った。俺は少しだけ屈んで名前にキスを施した。名前が驚いて目を開くよりも先に俺は背を向けて逃げた。今日は最高の一日だった。


  


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