さいきょう彼女!



!ギャグの才能はありません。なんか不健全に見えるけど最初だけです。何にもないです。



ドサッ……。私のベッドに広がった名前の艶やかな美しい、黒髪。絡まることの無い、それと私の薄い水色の髪の毛が混ざった。二人分の体重にベッドが小さく悲鳴を上げる。名前は潤んだこげ茶色の瞳で私を恍惚の表情で見つめていた。ドクン……と心臓が跳ねる音が聞こえた。昼にこんなこと、不健全だ。とか名前は言っていたが名前がいけないのだ。私をこんなにも煽って、欲情させる。紳士の仮面を名前はいとも簡単にはずしてしまう。
「名前……」
名前を呼び首筋に、吸い付いた。「んっ……」と抑え気味の声が聞こえ、顔を横に背けた。



そのとき、名前の体が強張った。ふふ、初々しい反応が可愛らしい。と、その時は思ったのだが…どうも、違うらしい。じっとベッドの何かを見つめたまま硬直している。
「……名前?」
私は恐る恐る、名前の名前を呼ぶ。名前はわなわなと震えていた。あ…若しかして、初めてで怖かった、とか……?嫌われた?嫌な予感ばかりが頭を駆け巡った。だが、事態はこれよりも深刻だった。
「…………エ、エドガー……」
色を含んでいた、先ほどまでの声色とはまるで違う冷たい声が聞こえた。その声のトーンを私は知っている。名前は、怒っている。血の気が引いていくのがわかる。しかし、理由がわからない!!何故、急に名前は怒り出したのか。レ、レディの心は移ろいやすいのは知っている。だから、といって今、怒ることはないではないか。そもそも、これは付き合っている男女の間柄では別に変な行為でもないし……ああ、頭がこんがらかってきた!!



そんなことを短い間にずっと考えていたら、いきなり名前の手のひらが私の頬を掠めた。
「あぶっ!」
それをサッカーで鍛え上げた瞬発力により、間一髪でよけた。い、所謂、平手打ちという奴だろう。因みに私は顔を殴られたことは無い。
「……エドガー、浮気したね?」
何のことです?という前に、名前は怒りに震える手で長い髪の毛を摘み私に見せた。とても、長い。女性の髪の毛のように見える。な、何故そんなものが……っ?!私は、名前と付き合い始めてからは、他の女性には手出しをしていない。不可抗力で相手から告白とかされたことはあっても他はない、断じて無い。私は紳士ですからっ!
「へ?う、浮気っ?」
先ほども述べたが、私はそのようなことはしていない。女性とそのような如何わしい行為はしていない。何度も言うが、していない!!つまり、ありもしない罪である。



ん?長い髪の毛?よくよく目を凝らして見てみたらそれは薄い水色の髪の毛だった。………………私のじゃん!!よ、よくよく考えれば(いや、考えなくてもだ)私のベッドなのだから私の髪の毛が落ちているのはなんら不自然でもない。寧ろ、自然である。放っておけば、古く痛んだ髪の毛は抜けるのだから。
「……名前それは私のかm」
言い終わるや否や名前の怒声と、手のひらがもう一度飛んできた。
「問答無用っ!!」
「あぶなっ!!」
ヒュン!と風を切る音が耳元で聞こえた。またも、間一髪で避ける。名前は本気で私に平手をする気だ……!こういう時にこんなことを思いたくは無いが、サッカーやっていて良かったと思う。これは、今すぐには誤解を解けないと踏みベッドから飛び起きてそのままドアへと駆けて外へと出て行った。まずいまずいまずい!!取りあえず頭を冷やしてもらって冷静にその髪の毛を見てもらわなければ……!生命の危機を感じる。



外を全力疾走で駆ける、名前も怒りながら追いかけてきた。全力で走れば撒けるであろうという考えは甘かった。陸上選手顔負けのスピードでどんどん私との距離を縮めてくる。鬼の形相の彼女に私は「ひぃい」と情けない声を漏らしてしまった。や、やばい、その辺のホラー映画なんかよりも断然怖いっ……!必死でスピードをあげつつ、通りの角を曲がるとそこにはランスが居た。相変わらず、呑気に兜を被っている彼は上機嫌だ。こっちは、死にそうなのにと怒りがこみ上げてきた。そんな私に気がついたランスが話しかけてきた。
「エドガー、どうした?今日は名前と遊ぶのではなかったのか?」
「そ、それ所じゃない……。説明している暇は無いのですが名前が誤解してしまって、今とても怒っているんですよ……!」
息を切らしている私を哀れむように、兜の隙間の暗がりから二つの瞳が覗いていた。話している余裕なんて殆ど無いのだが……彼には時間を稼いでもらいたい。何せ、私は全力で走って消耗している。
「ふむ……。誤解、か。協力してあげたいが、我はこれから昼食に行くところなのだ」
ランスはお腹が減っている、といわんばかりに腹の辺りを右手でさすった。私の命と、昼食どちらが大事だというのだ。しかし、駄目だ。此処は下手に出なければ。
「ラ、ランス……お願いです。私を助けてください……っ。このままでは全力で殴られてしまう……っ(今だけは)貴方だけが……頼りなんです。ランス……時間を稼いでください……っ。埋め合わせはかならずっ……!」



屈辱的だが、ランスに頭を下げてお願いをした。すぐそこまで名前は来ているはずだ。何せ先ほど走っているときに、結構距離を縮めていたから……。
「……わ、我だけが頼り?不覚!そんなに頼りにされていたのか、我はっ……!よ、よし!任されよ!このランス・ロットン必ずや、助けになろう!さぁ、行けっ!」
ランスが、道をあけてくれた。あ、有難うございます、ランス……貴方のことは忘れるまで忘れませんっ!私はまた、全力で走った。ランスのことだ、彼ならばきっと何分かは時間を稼いでくれるだろう。その隙に出来るだけ、遠くまで逃げねば……私の生命が危ない。



少し遅れて名前が来たらしい。声が後ろから聞こえる。だが、振り返らない。彼の最後を見たくない。
「ランス……。私の邪魔をする気ね?容赦しないわよ」
「……くっ。名前すまない。貴女を傷つけたくは無いのだが、少し寝ていてもらおう。ストーンプリズ……」
彼の必殺技が炸裂するまえに名前の声が聞こえた。
「ジャッジスルー2!!」
名前はいつの間にそんな恐ろしい技を習得していたのだろうか……!彼女の声が聞こえるや、否やすぐに恐らくランスのものであろう、断末魔が響き渡った。
「うぎゃあああああああああっ!」
数分は時間を稼いでくれるであろうと信じていた彼はものの数秒で秒殺されてしまった。あっけなすぎる最後だった。ひぃいい……!神様助けてくださいっ!!自然と溢れてきた涙で段々と視界が悪くなってきた。足元がふらふらしている。サッカーの試合でも此処まで全力で走らないからだろう。限界が来ていた。



「あっ……」
ついに足が縺れ、その場で転んでしまった。どうやらもう走れないらしい。足が悲鳴を上げている。立ち上がりなおも逃げようとしたが、真っ黒い影が私を覆った。……名前だ。振り向かなくてもわかる……。私は此処で果てるんだ……。
「エドガー。逃げるなんて、やっぱり浮気なのね。このベッドに落ちていた髪の毛が何よりもの証拠よ」
「……ち、ちがっ。聞いてください!それは……私の髪のk」
泣きそうになりながら仁王立ちしている名前を見上げた。名前が手を振りかざした。そのときだった……。
「まてっ……名前」
よろよろと、ぼろぼろになり兜も半壊したランスがそれを制した。救世主とは彼のことだろう。生きていたのか……!!太陽の光を受けた彼は光り輝いていた。
「ら、ランス!生きていたんですねっ……!」
「ああ……名前。今、話を少し聞いたが……それは、恐らく、エドガーの髪の毛だろう……」



瀕死のランスがそう証言したとき、怒りに顔を真っ赤にしていた名前の顔からゆっくりと怒りが消えていった。
「……へ?嘘っ?」
「嘘ではない……大体、髪の毛の色を見ればわかるだろう」
ランスが呆れたような口調で言うと名前は持っていた長い髪の毛をまじまじと見つめた。そして、いつものあの無邪気な笑顔を作った。どうやら、誤解は完璧に解けたらしかった。私は助かったのだ。生還したのだ……!神様、有難う!生きているって素晴らしいっ!!空気がいつもの数千倍おいしい!空が綺麗!ランスも……いつもより……汚い!おや……?おかしなことを言っただろうか……?ふふふ、世界は美しいっ!
「あ、あはっ。ほ、本当だぁ!ら、ランス……ごめんねっ!痛かったよね?これから暫くランチ奢るから許して!」
「……う、うむ」
ランスの体を名前はその華奢な体で支えつつ、空いている左手を私に手を差し伸べた。
「エドガーもごめんね?」
先ほどとは違いしおらしい名前。だが、私は許せなかった。今度は私が怒る番だった。名前が怒って私に平手をかまそうとしたことではない。私を追い掛け回したことでもない。
「な、何故……何故……私の言葉は最後まで聞かず信用せずに、ランスの言葉は簡単に信用するんですかっ!」
ランスなんかに負けたという事実が、私は許せないっ!私は信用に欠ける人間なのか?!そう、これには怒らずにはいられなかった。この後、しばらく名前と私の立場が形勢逆転したことは言うまでもない。ついでに、これからは名前を怒らせないようにという、鉄則が私とランスの中には出来た。


  


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