やんでれ彼女!



!夢主が病んでいる。刺します


憂鬱だった、今日も道を歩いていたら女性に話しかけられてしまった。別に女性が嫌なわけではない。問題はそこではないのだから。何が問題なのかと聞かれるならば、私の彼女としかいえない。彼女は、とても嫉妬心が強く女性が話しかけてくるだけでとても恐ろしいことになる。見ていないところで、浮気をしようものなら包丁を持ち出されること確定だろう。以前、カッターで腹を刺されたときは……確か、私が日本の女性を助けたときだったっけ。それ以来、私は下手に女性に紳士的に振舞うのをやめた。狭い部屋に二人きり。助けを求める当ても無い。



「エドガー……。また、浮気したのね。私から彼女に乗り換えるのね」
光の灯らない、黒く濁った瞳を私に向けた。内心やばい、と思いつつも、私は平静を装う。此処で下手に騒ごうものなら、また刺されるかもしれない。
「いいえ、違いますよ。ただ、挨拶をされただけです」
だらだらと嫌な汗が、頬を伝った。体中の血の巡りが恐ろしく早く感じられる。誤解だ、と私が弁明しても彼女の瞳には光が戻らない。
「嘘よ。貴方はそうやっていつも、私に弁解するけれども私のこと愛していないくせに」
「ご、誤解ですよ。私は貴女を……貴女だけを愛しています」
誠意を伝えるために、まっすぐ目を逸らさずに名前を見つめる。底の見えない、海のように淀んでいる。貴女が信じてくれなくても……私は……。



「だったら、私と……死んでくれる?本当に愛しているのならば構わないわよね?」
三日月に歪められた口元。何度目の台詞だろうか。“死ぬ”、“死んで”という言葉は初めてなんかじゃない。何度も言われたことがある。そう、数え切れないほどに。メールでも、言葉でも、いつだってその淀んだ灰色に飲み込まれている。
「……私は、貴女と生きたい」
死にたくない、とその度にいいましたね。貴女が死のうとするたびに、私は止めましたね。刃物で刺されたとき貴女が泣いていたのを私は覚えています。貴女の愛はあまりにも深すぎるのです。だから、貴女はちょっとしたことで私をすぐに疑ってしまうのです。誰の元に行かないといっても、貴女を愛しているといっても名前にとっては幻想でしかない。
「……信じて、ください。私は、貴女を愛しています」



「エドガー」
私の名前を口にして、名前は涙を流していた。光は無い。名前の精神は脆すぎる。簡単に壊れてしまう。私なしでは、生きていけない。否、誰かなしには生きていけないのだ。私には名前を見捨てることが出来ない。チームメイトに、私は間違っている、と言われた。そんなのとっくの昔に気がついていし何度も距離を置こうとした、別れようとだってした。出来なかったのだ。結局私は、名前を見捨てられないのだ。
「私も愛しているわ」
名前が私に抱きついてきた。ホッ、とため息を吐いて私は名前の背に手を回した。油断をした、その時だった……。鋭い痛みが腹の辺りに走った。ぎこちなく、視線を腹の辺りに落とした。何か鋭いものが腹に突き刺さっていた。……その、鋭いものに恐らく私のものと思われる赤黒いものがテラテラと怪しく光っていた。
「うっ……名前……?」
ジワリ、ユニフォームに赤黒い染みが広がった。無意識に、腹を押さえつけた。どうやら名前はナイフを隠し持っていたらしい。その鋭いものを、認識するのに少し時間を要してしまった。まったく気がつかなかった、迂闊だった。名前が怒っているのには気がついていたはずなのに……。名前が泣いている。その小さな体を揺らして、泣いている。ぼろぼろと止まることはない。涙を拭いたかったのに、手が空を掴みそのまま崩れ落ちていった。



「愛しているのよ、愛しているの」
名前の泣き声が聞こえる。何かを嘆くように、力なくしな垂れている。愛の言葉は、まるで私に言い聞かせるように繰りかえし、繰り返し。何度も聞こえる。遠くから聞こえる。意識がぼんやりと薄れていく。血が止まらない、血の気が失せてゆく。やがて、私の視界は一筋の光も射すことの無い、闇の底へと沈んでいった。泣き声は止むことがない。


  


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -