霧野



どうしよう。まさか、初恋が女の子だなんて。こんなことってあるんだろうか。頭を抱え込んで、最近あった出来事を頭の中で組み立てていた。友達にまさか、相談できるわけもなく一人で抱え込んでいた。「……はぁ」今までついたことの無いような、色を帯びた溜息だった。自分でも驚いた、恋なんてものとは無縁のものだとずーっと長いこと思っていたからだ。そもそも中二まで恋をしていなかったのだから、無理も無い。ピンク色の髪の毛を二つに結った、素敵な女の子だった。天使が舞い降りてきたといっても過言ではない程に可愛い子で私はその子にあろうことか、恋をしてしまった。といっても、話しかけたこともなくて、廊下ですれ違ったりするだけなのだが。



でも、いつもすれ違うたびに、軽くウェーブのかかったゆるふわな男の子と一緒にいるから色々と望みは薄い。あの子が多分、彼氏なんだろうな。美男美女でお似合いだった。初めての恋は告白するまでもなく、散ってしまった。酷すぎる。渡り廊下を歩く名前も知らないあの子を見つけて私は胸をときめかせながらまた、すれ違う。「うわっ?!」正確には……すれ違うはずだった。避けていくはずだったのに、肩と肩がぶつかってしまって私はその場にしりもちをついてしまった。少しだけ低い声が渡り廊下に響いた。だけど、ピンク色の子は、私のように転んだりはしなかった。何故だ。私より下手したら華奢に見えるのに。隣に居たウェーブがふわふわした男の子も突然のことに驚いていた。私は呆然と冷たい床にしりもちをついたままだった。「だ、大丈夫か?」ピンク色の女の子を放って、ウェーブのかかった男の子が私に手を差し伸べてくれた。あれ……?普通、自分の彼女を真っ先に心配するべきなのではないのか?……いや、私には配偶者なんてものは存在しないから、普通とかわからないけれど。二人の顔を交互にまじまじと見つめて、私は声も出せずに居た。



「……声も出ないほど痛いのか?神童、ちょっとこの子、保健室まで連れて行くから。先に教室戻っていてくれ」しまった、違うのに勘違いされた。と思ったときには何もかもが遅くて、ピンク色の髪の女の子が私の腕を引いた。ウェーブのかかった容姿端麗な男の子はそれを咎めない。ええええ!やめたほうがいいですよ!私はほら、貴方の彼女に惚れている邪念と煩悩と欲望の塊なんで二人きりにしたら何するかわかったものじゃないですよ!と目で必死に訴えかけていたが男の子には伝わるわけもなく、笑って「わかった」といって、私たちに背を向けてコツコツと足音を響かせて教室のある方面へとそのまま向かっていってしまった。カムバーック彼氏さああんん!このままじゃ私この子襲っちゃう!だって、この子の仕草まじ、やばい!それにしても、何で男子の制服、着ているんだろう?どうせなら、生足を拝みた……はっ!ふ、触れてはいけない内容なのね!



何度か断ったのに、目の前の天使は私の手を引いた。それどころか、お姫様抱っこにしようとするものだから全力で断った。思い人が私を抱き上げて重みに耐えかねて死んでしまったら、罪悪感で切腹でもしなきゃ許される気がしない。彼氏に殴られても文句は言えないだろう。ガラガラと保健室の扉を開ける、薬品の匂いが鼻につく。いつも優しげに笑顔を浮かべている白衣を纏った女の先生はいなかった。「……あれ。いないな」なんてことだ、他に人もいないじゃないか。この薬品の匂いがする密室で私と天使の二人きりだなんて……。神様も粋な計らいをするじゃないか。何もしないけどね!嫌がられたり、拒絶されたら私、不登校になってしまうかもしれないから!「あ、有難う。もういいから、早く戻らないと」



時計を確認する。言い訳のチャイムが鳴るよとか使えない時間であったことに絶望した。此処は普通、チャイムぎりぎりって設定だろうに!天使(名前がわからないので私はこう呼ぶ他無い)が時計を見て微笑んだ。「まだまだ余裕あるな」うん……余裕たっぷりですね。今日は時間の進みが恐ろしい程に遅いや。二人きりで話せて幸せだけど気まずさもあることを忘れないでほしいよ神様。


襲わない私を価してください


  


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