霧野



「蘭丸、難しい顔をしているね。何かあった?」名前が俺のことを心配そうに覗き込んでいた。無神経とは言わないけれど、結構さばさばしている。「いや……お前のこと考えていた。名前って俺のこと本当に好きなのか?」普通、逆なんじゃって頭をよぎったが。この際どうでもよかった。はっきりしてほしかったし何より俺の心が落ち着かない。毎日こんなことに苛まれていればいつか、俺の心が病むだろう。「蘭丸、そんなこと考えていたの?あは、可愛いな〜」ぎゅと抱きつかれた。首筋に息がかかって全身が粟立った。こうやって人目につかないところにいるとすぐに抱きついてきたり、俺に触れてきたりする。嫌いじゃないけど、俺に主導権が無いのが悔しい。そのうち主導権を奪ってやる、と息巻いているのだが……中々うまくいかない。「あ、質問の答えになっていないね。可愛いからだよ。私のドストライク」



「はぁ?そんな理由なのか?」俺は愕然としてしまった。愛は無いのか。俺は愛玩具のような扱いだったのかと。ぼんやり、朧気な意識の中で考えるのをやめようとすらしていた。これ以上ひどいことあるか?可愛いとか可愛くないとかよくわからない名前のものさしで図っているのならば、俺である必要なんかなくて、神童だろうと、南沢先輩だろうと一乃の奴だろうと下手したら女でもオーケーなのかもしれない。「ごめん、冗談よ。えーっとね……蘭丸と付き合ったのが初めてってわけじゃないのは知っているよね?」「ああ……。あんまり長持ちしなかったとか言っていたな」俺と付き合う前の話なんて、あまり聞きたくないがそこに理由があるというのならば、聞いてみようと思う。抱きしめていた腕を緩めて俺と、瞳を交えた。



「他の人は落ち着かなかった。でも……蘭丸の傍が一番心地よくて安心する……。ずっと居たいなって思っている」いつになく真剣で、多分嘘を言っているわけではない。名前の瞳がそういっていた。ただ、そこに俺の求めている要素が含まれていたかというと、違う。俺が言ってほしかった言葉とは違う、としかめて俺が、喋ろうと唇を動かそうとしたときに、制された。まだ、続きがあると。「蘭丸が不安に思っていたの気がつかなかった。ごめんね」にっこりと、いつものあの軽い笑顔を顔に貼り付けた。全然悪いとか思ってなんかいないくせに。本当、余裕たっぷりのいつもとなんら変わりのない、声色だった。


「蘭丸が大好きだよ」それきりプツン、言葉が途切れた。いや、俺がやめさせたんだ。


談でも良かった

  


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