箱庭番外編 | ナノ




 とある予備軍との邂逅



不本意と言う言葉をご存じだろうか。望んでもいなかった展開に目紛るしく変わる周りからの視線には慣れない。心が折れてしまうと思ってもいない事を考えていれば、頭に乗せられていた金色の偽髪(つまりはヅラだ)がズレそうになった。

「何か用かよ、てめえら」

彩り豊かな獣が居る。ただそうとしか思わなかった男は、隣に居る筈の幼馴染みの影を探す。―――あれ、居ない。少し離れた場所から聞こえた殴音。既に乱闘していたようだ。散乱しているグラスを眺めながらも、抱えたくなる頭をどうにか堪える。

「…お前達の総長は居るか?」
「は?シュンさんに用かよ。誰が会わせるかっつーの」
「つか、アストルに来るとか何考えてる訳?お兄さんってばバカ?」

狂ったように笑いながら茶髪の男に拳を振り上げる我が幼なじみ。どうしたらいいんだ。ただそれだけの疑問に頭を悩ませ、男は向かってくる三人の拳をいなしていく。

あんまり強く無いんだな。なんて自身の力が規格外である事に気付かずに男は掴んだ右手を凪ぎ払ってソファに投げつけた。呻く声に怪我はしていないかと問い掛けたくなるのを堪えて迫る拳を避けていく。

「お前、あんまり強くないね!俺のがサイキョーだわ」
「…っ、黙れ…!!」

薄茶色の髪を掴まれながらも、幼なじみの手を離そうと呻く姿に近所の子供に虐げられていた捨て犬を思い出した。だからだろう。総長が居ないならと視界を覆う金色を撫でつけながらも二人に向かって歩を進めた。

じわりと揺れる瞳を覗き込もうと膝を着いた自身に咎めるような声と困惑をそのまま母音に乗せた声。偏に可愛いと愛玩の意を込めて、殴られたであろう頬に手を伸ばした。

「痛かったか…?」
「てめ、の…仲間がやったんだろォが…!!」
「やだ、君ってば可愛い顔して口汚い!」
「ヤス、五月蝿い。…まあ、そうだな。今日は総長さんが居ないみたいだから、大人しく帰るさ」
「……シュンさんに手ェ出してみやがれ。ぶっ殺してやる…!」

馬乗りされている癖に。怯えている癖に強がって小さな爪を立てる姿はまるで猫。「何もしないさ。多分」曖昧な答えを返して、未だに馬乗りになって男の顔を撫で回す幼なじみの脇に手を差し込んで抱き上げた。

慣れた手つきに呆然としながらも、「副長!!」「マツリさん!」と声を上げて取り囲まれた己の切れた口端を拭う。大丈夫だと手で制し、近所のコンビニに罰ゲームのアイスを買いに行っている総長を思い浮かべて口許から吐き出されたのは渇いた笑み。

勝つ自信があった。これでも二番目の位置に名を置いているからこそ、自惚れでは無いのだ。闇に光る赤色の瞳に魅了され、頬を撫でる人に全てを委ねたくなったのも事実。

―――将来ヤンデレ予備軍と呼ばれるぐらいに執着心を抱いてしまう男は、己の血で汚れた服を軽く持ち上げて小さく笑った。

「クソッ……超痛ェ…」

小鳥遊祭、十四歳。敬語のけの字も知らない男が二人の神様と出逢った夜の話である。





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