箱庭番外編 | ナノ




 遅れたバレンタイン




「いっつ、ばれんたいーん!」
「ヒロやんってば発音なってないじゃんよお!」
「祭くんも参加しちゃいまァす!ホワイトデーには総長貰っちゃうんですよォ!」

とうに過ぎたバレンタイン。思い出したかのように「やっべ、バレンタインだった!」と声を上げた平凡に赤目を細めて笑う。便乗してしまった会計は既にホワイトデーの事で頭がいっぱいだ。渡すべき相手は三人同じ。我等が王様である。

「だが然ァし!!総長って甘いのあんまり食わねェんですよ…アストルの時だってチームの奴等からのチョコを竣サンに食わしてたしィ?」
「あれま、マジか。選択ミスった?」

両手で顔を隠し、空を仰げばチリンと鈴が鳴った。「その鈴って五月蝿いよね」なんて言った暁には死体の山が五つ並べられると知っているので口にはチャック。猫目を爛々と輝かせながらも平凡は既にチョコを溶かしている男を見た。

駄目だ。あれは食えない。一瞬にして食べ物か否かを判別した平凡は銀色のボウルを掻っ攫う。「これは美樹に食わせたら死んじゃうからね!?」「ヨシはお強い子なんですう!簡単には死にませーん!」ウヒヒと笑う姿に悪魔。あ、やばい。こいつ楽しんでやがる。

「でもォ、竣サン達は今年も別モンで済ませると思いますよォ?祭くんは知らないけど、コーハイくんが言ってたしィ!」
「あー…マジで。―――って、康貴何やってんの!?生クリームはまだ使わねえよバカ!!」
「白でトロトロとかマジウケるー!」
「…そーゆー事なんで、祭くんは総長に祭くんを丸ごと美味しく頂いて貰うって事にしまァす!」
「え、何それ俺見に行きたい!是非とも同行の許可を!会計様!ちょ、康貴生クリーム溢すなよ!」

右に左にと忙しなく動くオタクに素知らぬ振り。指に付着した生クリームをペロリと舐める男と恋慕う相手を思い浮かべて腰をくねらせる男。収拾がつかないとはどう言う事だ。抱えた頭にはいつの間にか生クリームが付着、なう。泣きたい。

「―――…あ?てめえら、何やってんだよ」

半泣き状態のオタクを救ったのは重鎮である紅い獣だった。即座に現状を把握した後に、面倒だと言いたげに頭を掻く。紅く塗り潰された爪がいつもならあった筈なのに今日はそれが無い。代わりに、甘い香りが少し。

くんと鼻を鳴らす。やはり甘いそれはチョコレートらしい。こいつも同じか!友人大好き人間が溢れかえるこの場所で、疲労と萌えに挟まれたオタクは堪えきれない目眩と共に思考を遮断した。

グッバイ、萌え。







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