箱庭本編 | ナノ




 予測不可能サプライズ


美しい人の隣には美しい人を。華美な装いに疑いはせず、だからこそ当たり前の事だと侵食された脳で笑う。

はためかせた白のブレザーは嫌いだ。美しくあれと、気高くあれと見せつけられるような似合わない装いだから。

「アレス様、見ーっけ」
「……来るのが早ェんだよ、泣き虫」
「くすんくすん泣いてたんは、アレス様が素っ気無いからやん!」
「要よりマシだろ」
「あん人は興味無いだけじゃろ、会長以外に〜!」

グシャグシャに乱れた金髪を撫でて、腕を引いて絡ませる。寝起きだからだろうか。雄臭い色気を纏いながらも何も言わないから好きに出来てしまう。

美しい人には美しく気高い存在を傍に置かなければならない。だから諦めていた事もある。そうしようとして、自尊心を守っていたのも事実だ。

「代行人、下ろされるんかね」
「さあな、それは新会長の見せ所だろ」
「あはあは!だねえ、そうじゃねえと楽しくありゃあせんね!」
「お前黙れ、頭に響いてんだっつの…」
「頭痛なんて屁のかっぱの癖に〜」

うりうりと2センチしか変わらない相手の肩に頭を乗せる。それを慣れたように引き剥がしながらも、頭を掻くのは先程まで愛しい人を思い出して泣いていた陰井透夜―――名前に似合わない派手な容姿の男であった。

「チッ、エレベーター使用中じゃねえか」
「ウチが使った時はそないな事無かった……あ!会計ちゃんと紅くん発見じゃ!」
「これはこれは色気たっぷりの風体で有らせられるゥ、陰井ふくかいちょーじゃ〜ん?たっけてー」
「……何で踏まれてんだ、小鳥遊会計。後、副会長じゃねえよ」
「紅くんの新手プレイ?あんれ、紅くんってばホモは駄目駄目よ〜!やなかったん?」
「うっせ!!新君子に手出ししようとしやがったから止めてただけだボケェ!」

がうっと歯を剥き出しに怒鳴った男は紅。紅に背中を踏まれたまま、ひらひらと手を振るのは明るいブラウン、光を透かせば柔らかいハニーブラウンの筈だ。

そしてその二つを見つめるのは絹糸のように細い藍混じりの黒と、煌らかなゴールドである。

「式典出ねえのかよ、糞犬」
「出ますー、そうちょ……後輩に色々教えてから出ますー」
「挨拶あんだろーが。然もテメェが教える?笑わせんな、紅の君」
「それで呼ぶんじゃねえよ、グズッ!!」

「会計ちゃんへーき?」
「さっき両足で乗られた時よりィ、断然マシですよォ」
「うひゃひゃ、さっすが狂犬!狼より痛みには強いんねっ」
「つーかァ、男同士でベタベタしてるのって気持ち悪く無いですかァ?」
「アレス様は特別ぜよ!」

べたっとまたまた腕に指を絡ませた黒に笑うしかない。ハニーブラウンの髪の持ち主であり、生徒会会計の小鳥遊祭は、竣の脚が透夜に向かったのを確認してからゆるりと立ち上がった。

「ふァ…眠いのにシュンさんも酷いやァ…」
「君子サマに手ぇ出したんじゃろ?」
「背負い投げされたらやるっしょ!?」
「うげ、背負い投げとは…やーね」

ぽんぽんと肩を叩かれ溜め息。敵対するチームに所属しているが、校内ではあまり表立って騒がないのも約束の為。

『面倒は嫌いだ、煩わしい』

底冷えした視線を貰わない為でもあるのかもしれない。

「さっさと行きましょ、シュンさァん!長居してたらシュンさんも椚も懲罰室行きですからねェ?」
「ちょっと待て、コトリ。コイツ殺す、ンで埋める」
「やってみやがれ、駄犬が」
「駄犬はカゲだけだって知らねえのかクソがッ!」
「シュンさん、カゲが居たら泣いてるからやめたげよォね?」







腕を引かれる。こっちだよ、こっちだよと囁くように、笑いながら走る二人に息を切らすのは自分だけ。

「よし、きっ!本、……っどうだった…っ?」
「会長攻めかと思った矢先の平凡風紀委員長攻めだと分かったのが最大の驚きだ」
「おもしろ、…ハァッ、…おもしろかった!?」
「人が幸せな姿を見るのは同性だろうが楽しいし、…好きだ」

目の前の背中は遥かに自分よりも大きくて、脚だって長い。もう少しゆっくり走れないものかと視線で訴えたって、きっと伝わらない。平凡には世知辛いなあと笑わずには居られないのに、そう言えば校内を走るのは初めてだなと瞬き。

「再従兄弟がさあ、ヒロやんと同じフダンシなんだよー。そんでそんな本を沢山読み書きさせられてたから偏見とかは俺達二人にはナッシング!」

わざとらしい発音で笑った康貴を気に止めず、ひたすら前に前にと走っていた美樹の足が止まった。ぶつかるのは平凡の鼻。何だか骨の砕けるような音……気の所為か。

「突き当たり…右には階段」
「ヨシ、ちゃんと下りようねー?」
「手摺を滑るとか、は…」
「うちのジジイに怒られんの、やでしょ?」
「………」

無言で螺旋階段の手摺に乗ろうとした眼鏡に呆然。もう一方の眼鏡が笑顔で止めたからこれ幸い。十九階から飛び降りようとする友人の赤を見ずに済んだ。

「よし、降りよっか」
「俺は何も言いませんっ」
「それが正しいかもねえ、面倒だもん」
「八尋、滑るなよ」
「十九階がなんぼのもんじゃい!平凡が美形を攻める一瞬すら!最早谷底に落ちるのを覚悟してると言うのに!!」

キラキラと光を反射する階段の手摺に触れ、目の前は大絶景。ちらほらと歩く白と黒はオセロのようで、高く噴き出す噴水は乙女が水瓶を持っている。そして離れた向かい側には天照寮を取り囲む他寮。

ああ、なんてファンタジー。





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