箱庭本編 | ナノ




 柄にもなく君のために祈ってる


「相棒よ。オジサンは限界です。酒と煙草とオンナ、ちょーだい」
「黙りなさい。一昨日からメールで何度も何度も何度も何度もしつこいんですよ、あんたは」
「生でもオーケー、お前さんを抱いてやろうかい?」
「死ね。塵になれ、カスが」

しっかり着込んだ制服が真っ白な廊下に溶けていきそうだ。

「………よ、ヨーグルト、ほしい」

ポツリ。落とされた言葉に顔を見合わせたオレンジとゴールド。流石体内の80%は乳酸菌で出来ているのだと自称出来る程の徹底振りだ。

「今日はどれだけ飲んだんですか、お前は」
「えっと、えっと、飲むヨーグルトを三ダース、と、……ちょっと」
「キングが聞いたら怒るだろうなあ。『カゲ、蛋白質も大事だぞ』なーんてさ」
「……蛋白質よりも糖分を摂取しまくっていた人に言われても困りますけどね」
「ジョーさん、不機嫌?だいじょーぶ?」

あまり背丈の変わらない陽炎に覗き込まれて戸惑いを抱く。「のど、かわいた」呂律の回らない言葉を耳にしながら、歩く速度を更に落とした頭を叩いた。

「暴力は、駄目。絶対、駄目」
「喧嘩好きが何を言いますか」
「落ち着けって!講堂フロアが目の前にあるんだから、静かにだよい」

しー、と口許に指を一本だけ添える。正装姿の三人の周りには黄色い声を上げるチワワとマッチョに+α。186pの夜鷹と179pの九条、177pの陽炎が並ぶだけで悲鳴ものだ。

「ジョーヴェ様のお顔の色が悪そう!また、乳酸菌不足かもしれない!」
「外園様!是非僕の愛飲品のヤクルトを!」
「俺のはカロリー二分の一ですぅ!」

「ヴェネレ様ぁ…今日も肩にはペルシャ猫……美しい」
「荊尾様が表紙を飾った雑誌は全て買い占めましたぁ!」
「今度のショーも楽しみにしてますぅ!」

「メルクーリオ!一発ヤらせろ!」
「ぼ、ボク、こんなに近くで鬼灯様を見れたなんて…!」
「この前の新曲、良かったぜー!」

チワワにチワワとチワワに柴犬。キラキラキラキラと此方を見やる視線に手を振って返すのは夜鷹の役目だ。

「あいらぶ、ゆー!有難うよ、お嬢さん達ィ!今度俺が抱いてやるよい!」
「「「きゃーっ」」」

ふざけたオレンジ頭を手刀が襲う。ガスッと鈍い音を立てて崩れ落ちそうになった夜鷹の腕を引いた陽炎は、見知らぬ生徒から貰ったピーチ味のヤクルトの飲み干した。

「……んまい」

ぽわ、と、一人だけ辺りに花を咲かせた乳酸菌犬は見えない尻尾を振ったままおかわりを要求する。また殴られて終いには取っ組み合いだ。

「そんなんだから身長が伸びないんだって、お前さん達は!」
「「黙れ」」

緑の乳酸菌犬は左足を上げ、金色のふわふわ犬は爽やかに笑みを浮かべて手刀を落としたのであった。そして沈黙。

「ああ、またつまらないものを殴ってしまいましたね」
「つまらない、いらない、きらい」
「ちょ、ちょい待ち!!カゲまで切れるとは思わなかったんだぜ!?おーちーつーけー!!」

いつの間にか辿り着いた講堂フロアには既に生徒の大半は集まっているらしい。半泣きのままに辺りを見渡した夜鷹は、クラスメイトを見つけた途端に走り出すのだ。

「牛島くーん!!」
「内芝だバカヤロー!!!」

どうやら名前を間違えたらしい。「悪ィって言ってんだろい!」「この二年間言われた事無いわー!!!」突っ込み属性のモデル仲間はどうやら生理中のようだと納得してから壇上を見上げた。

「……何やってんですかね、あいつは」
「うしじま?いじめ?」
「残念ながら、確かにウチシバと言っていましたね」

「―――…みーーんなーー!!ハルだよー!!」

キィィン、とハウリングを起こした事を気にした様子も無くフロア内は歓声に湧き立つ。パチンと可愛らしくウインクをした後に、くるりと一回転したその人は、ふわりと浮いたスカートを押さえて、

「きゃっ、見ないでよ!バカァっ!」

顔を赤くしてマイクを握り締めたのだが、これを演技では無く素でやってしまうのだから憎めないのだろうか。

「ハル姫!!俺達のハートを奪い去る死神ィ!!」
「姫様ってば、今日もあの方と一緒なんだなー」
「デケェよ、隣の奴」
「綴様でしょぉ?ミステリアスで素敵…っ」

(聞こえた!?オレ、素敵だってΣ(゜Д゜))
(ただの空耳だから黙ってなよ)
(イエッサー!!(`◇´)ゞ)

「式典の開始はまだ一時間以上はあるんだけどね、皆が退屈しないように、ハルが出てきたんだー」
「オイオイ、暇だから出てきただけっしょヾ(--;)」

宥めるように撫でられた頭を白い衣装で拭おうとして、止めた。生地に顔文字が浮かぶかもしれないと思ったからだろうか。多分それだ。

見渡す。壇上から許されたこの時間内で、彼の人を探す。

自分達だけが知っている。
(彼等が年下だと言う事を)
自分達だけが知っている。
(ペットでは無い人間が)


(城内には人の王様が居る事を)


「早く見つけて、追い出さなきゃ」

神様に囚われてしまう前に。




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