箱庭本編 | ナノ




 待っているようで追い掛けていた


「るんたったー、るんたったー」

片付けた書類の束を待ち構えていた会長と副会長の席へと投げ入れて、今では日常化した嫌がらせメールを送信。

サブタイトルは『総長出せや、コラ』である。

音符を辺りに振り散らし、この学園では最早周知の事実である異国の血が流れている己が身に現れた蒼色をゆっくりと撫でた。ピピピ。固定音で返信のお知らせ。開いたメールにビキリと青筋。

「祭くんはー、紳士でしたァ。だからァ、見なかった事にしてあげますよォ」

クスクスと笑った瞳がドロリと溶け始める。振り撒いた色気にチワワは卒倒。オオカミは二つの穴から血を噴出させた。

―――理解しているのに、二年の月日が経とうが繋がりを持つ事の許された男との連絡を絶たないのはプライドか何かか。鳴り響く鈴の音に、廊下を歩いていた生徒達はモーセのように道を開けていく。

「サンキュー。みんな、あーりがとォ!」
「あらら、イイ所にカモ発見!きゃ!」

きょるんと瞳を瞬かせたオネエの登場に湧き立つ廊下。祭がげんなりとした表情のままに、オネエを『なゆちゃん』と呼んでは首を傾げる。与えられた仕事は既にやり終えた後だと訴えようとすれば、「困ってるの。助けてちょーだい?」と金色が揺れた。

「別に構いませんけどォ、祭くんが得意なお仕事じゃなきゃ受けませ〜ん!」
「それなら大丈夫だわ。まあ、会計である貴方なら簡単に終わらせてしまうだろうし、お願いね?」
「……君名持ちのベルトじゃないですかァ」
「外部生のね、二手の彼に渡すのを忘れちゃったのよ。名前は笹塚康貴ちゃんよ、宜しく頼むわ」
「祭くんが引き受けました〜。外部生が君名持ちとかマジで有り得ませんねェ」

同じようにきょるんと瞳を瞬かせながら言えば、叢雲は愉快げに笑みを深めた。

「新着メールみたいね。見たらどうかしら?」







チカチカと光る携帯に気付き、首を傾げる。知らないアドレスに、然し見覚えのある文面。思わず滲む視界は、二通目を開いて一気に乾いた。

捜せとの命令に忠実な犬が走ったのだと辻褄を合わせ、それに伴って働かせた思考は有意義な時間になろうともしない。邪魔でしか無く、それでも考えろと己の脳と細胞に訴えた。

「ふくちょー、居るの?」

何処に、何処に居る?探し求めた人の存在を教えるかのようなメールと、春を訴える挨拶状。白い廊下を歩きながら溢れ出した涙は、両隣に立っていた二人を驚かすには十分だったのだ。

「そーちょー、居るんだって!ね、見た!?見たよね!?」
「落ち着きなさい、カゲ」
「だ、だっ、だって!」
「オジサンの携帯にもメールを確認!大丈夫だって、カゲは深呼吸なさい。スーハー、だぞ!」
「ふえっくしゅっ!!」
「くしゃみをするなら口を閉じる!」
「ふあい…」

餓鬼かと呟いた二人に返す言葉も無く、この学園に居るのかと息を吐いた九条が終始困ったように眉間に皺を寄せた。

「―――然し、この学園と言うのは少し浅慮では?あの人は確か今年で二十歳だった筈でしょう」
「あー、教師とかになってたり?頭良かったからねえ」
「っ、くしゅっ!!……え、居ないの?」
「あの容姿なら直ぐ分かるでしょう、普通は」
「だよなあ…」

振り出しに戻ると呟いて、向かう先は自身の部屋がある寮である。式典用の制服着用が義務付けられているのだ。着替えるしか無い。白いブレザーに黒のシャツ。

黒いネクタイを装着した自身の姿を想像し、陽炎は再びくしゃみをした。




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