箱庭本編 | ナノ




 常時圏外の心から


壇上に上がり、ハウリングを起こさないようにとマイクのチェック。やはり、いつ見ても此処からの景色は恐ろしいものだと思ったのか、階段を使う事無く飛び降りた。

「姐さんやめてーΣ(゜Д゜)」
「おお、…ナイスキャッチ」
「耳許で煩いでしょ!おバカ!」

ガツンと叩かれた側頭部をそのまま、膝裏と背中を手で支えての横抱き。学園の姫の無事を確認したら、ゆっくりと身体を地面へと下ろした。

「いきなりは心臓に悪いっしょ(゜゜;)」
「また、壇上、怖かった…?」
「うううう煩いって言ってるでしょ!!」

ギュッと力強く握られたスカートを眺めながらも、否定しない辺り図星らしい。ケラケラと笑い始めた男を指差し、「玖原はシメる」死刑宣告である。

「姐さんはお怒りのようで、オレはひとまず退散しま〜す\(^o^)/」
「待てって言ってるでしょ?」
「ドハツテン、だ」
「やべえオレ死んじゃううううう!」
「冥府まで逝ってこいッ!」

脇腹を蹴られて崩れ落ちる男―――玖原綴は、そんな自身を見下ろす陽炎の視線を受け流すように目の前の人物のスカートを素早く捲った。ぶわっと捲れた先は、誰にも暴いた事の無い世界があったとか。

「ハルの姐さん、……いいと思うぜ(^^;)」

慰めるようなその言葉に、本当の怒髪天を陽炎は見る事になる。

―――…毎年、何故か手伝わされる式典までの微調整。嫌いでは無いが、敵同士だとこの学園では言える位置に彼等は存在する。

王の玉座に座る神と玉座を持つ事の無い神。人智を越えた人を知っている。最早、人である事に疑問を持つぐらいに優れた男を。―――漆黒を靡かせて、壇上に上がったその姿。全てが神の供物だと知らしめられたその時、一番求めていた人を思い出すのは悪い事だったのか否か。

「あれ?カゲちゃん顔色悪くねー?(°Д°)」
「吐く、っす」
「あんた、乳製品食べ過ぎなんじゃないの?ほらほら、叢雲教諭の所に行ってきな」
「うえ…っ、はい」

晴彦に背中をポンと叩かれ、促されるままに廊下を出れば、困ったような素振りで辺りを見渡す男達。夜鷹と九条を認識した途端に走り出した陽炎は、いつまでたっても甘えん坊なのだ。

「ジョーさん、ヨタさん…!」
「ぐふっ」
「ちょ、あんたですか。驚かせないで下さいよ」
「ご、ごめんなさい」
「おー、よしよし。泣くなよ、カゲ。オジサン困っちゃうから!」

駆け寄って飛びついて、擦り寄る。夜鷹はそんな陽炎の頭を撫でて、九条は右手に納めたままの竣の携帯の残骸に溜め息を吐いたのだった。

「それ、シュンさんの…」
「いきなり携帯を見たかと思ったらさ、キレて走り出した訳よ」
「だから探しているんですけどね」
「で、電子手帳でなら、分かる、かも」
「ああ…便利道具だねえ、それって」

生徒会や風紀取締役会にのみ贈られるそれを見つめながらも、操作を始めた陽炎を待つ。必要に応じた時のみに生徒の居場所を特定出来るそれは、何よりも重宝していた。

『―――ホカゾノ カゲロウ様。声紋認識の為に合言葉をお願い致します―――』

「Je prie la lune.(俺は月に祈る)」

『―――認識完了。お探しの生徒名をお願い致します―――』

「百目鬼竣」

『―――ドウメキ シュン様の現在位置を表示します―――』

映し出された場所を見て、夜鷹が悲鳴を上げたのは言うまでも無かった。「離れ過ぎじゃあ無いかい!?」夜鷹の言葉に九条は頷くしか無かったのである。

「探しに行ったら、式典に遅れる、多分」

遅れる事はどうでもいいが、探すのも億劫だと思いつつも、九条は陽炎の髪をゆっくりと撫でた。




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