箱庭本編 | ナノ




 やわらかい言葉を


天空の君はアマソラともテンクウとも読む。ソラと呼ぶ例もあったらしいが、天空はアマソラと口にするのが基本らしい。光明はコウメイ。天に射す光だからこその君名。

理事会から与えられるその勲章は、生徒から畏怖を抱かれてしまう。学年の親だからこそ、子は父母に恐怖した。

「―――有り得ない!僕は認めないからね!?ただのオタクじゃん!二位の方がまともじゃん!髪型的に!」
「認めるも何もー、それはデイユの決定ですお(/´△`\)姐さんやい、ヒスんなってー」
「うっさい顔文字浮かべんな!」
「ぬーん(´・ω・`)」

バシンッと二枚の書類を床に叩きつけた『姐さん』と呼ばれた男は憤慨する。神王院学園は男子校だ。いくら少女のような容姿をしていようとも、ふわりとスカートを揺らしても性別は誤魔化せはしない。

地団駄を踏む勢いで怒り、理不尽にも胸倉を掴まれた男はどうやって浮かべているのかも分からない顔文字を現しながらも、暴走する馬を宥めるかのように笑った。「何笑ってんのさ!」と叫び、前髪で隠された目から感情は窺えない。

「姐さーん、オレってば、暇ァ(/´△`\)」
「知らないよ!外園に相手してもらってな!」
「却下、で」
「うえーん、振られたぜよォ(。>д<)」

いつの間にか傍らに立っていた男は、深緑にも似たミドルグリーンの髪をわっしゃわっしゃと撫でれば、ヨーグルト片手に目を瞬かせた犬が鳴いた。「くぅん」キュンッと撃ち抜かれたのは誰のハートなのか。自身の主人に使っていたおねだりの一種だが、それを知っていても尚惹かれてしまう動物愛好家。

犬は犬でも、駄犬として名を馳せる男は、ヨーグルトを飲み干した。本日五本目。誰も止めやしない。

「犬ー、犬ー!ワンワンッヽ(´▽`)/」
「わん」
「キャアアアアア!!!かわゆいかわゆい!!」
「うっさい!!黙れってばあ!!」

どこぞのオタク同様の悲鳴を上げて抱き締めた犬は、長い舌で指に付いた白を舐めている。ただのヨーグルトだが、乳製品と主人が生きる糧である犬にとって少しのお残しも許されなかったのだ。

女装系男子と顔文字系男子。―――それから駄犬系男子。訳の分からない三人組は、広々とした講堂が、煌びやかな装飾に包まれている事を当たり前だと言いたげに練り歩いていた。式典まで時間は三時間と無い。だからこそ、与えられた仕事をこなしたいのが御崎晴彦。女装系男子である。

「取り敢えず片付けるよ!君名持ちが挨拶をしなきゃなんないんだし、デイユも表に出て来るんだから!」
「姐さんとかー、翡翠の君ってー、デイユを溺愛しすぎじゃね?(´∇`)」
「俺には、分かんないっす。理解、…不能?」
「我が君がアストルの二人を捜してるってだけで、苛々してんのにーー!!もう、やだ!バカ!」
「うひっ(。>д<)ぺちんは駄目よー!手が真っ赤ですおー(/´△`\)」

ぺちんと軽く頬を叩かれた男は、シクシクとわざとらしく涙を流す。流石演技派。あたふたとしながら花柄のハンカチを取り出した晴彦は、毎日この手に騙されているらしい。「けふっ」駄犬のゲップが響いた。

「あら、カゲちゃんお腹いっぱいになったー?(^^)」
「なった、っす」
「じゃあ、オレとランデブーしようぜ(о´∀`о)」
「ヤです」
「ガーン(|| ゜Д゜)」

紫の髪をくしゃりと乱し、膨らませたガムがパチリと割れた。膝を着く姿は不審者のようだとカゲちゃんもとい、外園陽炎は思案する。敵対心を持たない存在は珍しい。パチン、パチンと割ったガムの色は紫。グレープだ。

泣いた水色を視界に映し、言いようの無い不安に駆られたのも事実。泣き喚く事が許されたのは後にも先にも、泣き虫の犬だけ。―――…思い出しては、覚えた吐き気。

「…Oui, j'oubliais(そうだ、忘れてた)」

吃音が目立った話し方は姿を消し、流暢なフランス語で言葉を放った陽炎は宙を虚ろに眺めた。

『お帰り、カゲ』

甘く、優しさを含ませた声は変わったかもしれない。二年の歳月は恐ろしい程に人を変えてしまうのだと、一番理解していた癖に一番分かっていなかったのだ。―――溜め息。その場に落とし、陽炎は晴彦に呼ばれるがままに手足を動かし始める。

『イイコ、だな』

また、褒めてもらう為に。





××××××
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -