箱庭本編 | ナノ




 掻き混ぜて、抱き締めた


「―――ヨシの危機っ!」

勢いのままに起き上がった康貴に肩を跳ねさせた竣だったが、持ち前の瞬発力と『ヨシ』と言うキーワードに立ち上がった。「総長に何かあったんですか!?」「多分!」カラコンをする事無く部屋を飛び出した背中を見つめ、テーブルに置かれた眼鏡を片手に走り出す。

勘を勘だと笑えないのは、その相手が康貴だから。チームから抜けた事は認めていないけれど、2トップのどちらかに危険が及んだ時、片割れは早々に反応を示していた。慣れだとその時は言っていたが、きっと慣れなんて一言では済まないだろう。

寮内をよく理解していない筈なのにと思った。まるで何かに呼ばれるように走る康貴は、その整った顔立ちをさらけ出している。上がる悲鳴さえも聞こえやしない。容姿からは想像出来ない程の脚力は、竣さえも凌ぐ。

「―――ヨシィィ!!!」
「んっ、な、…何?」
「ヨシ怪我してない?無事?清廉潔白?」
「怪我してない。無事。……清廉潔白は意味が違うだろう」

角を曲がった先には、顎に右手を添えて何かを見下ろす人。その背中に飛び込んだ康貴は、いつもと変わった様子で、そして必死の形相で美樹の安否を確かめた。「怪我してたらマジぶっころ」「お前に殺されるのか、俺は」背中に康貴を貼り付けたまま会話をする様子に、詰めていた息を吐く。

無事で良かった。康貴の仰々しい物言いに驚きはしたが、彼に何も無くて良かったと言うのが本音である。どうしようもないなと溜め息を飲み込んで、竣は美樹の傍らに積まれた人を確認した。

「喧嘩、売られたんすか」
「地味な格好だった所為か、カモにされました」
「なあに、それ。マジぶっころじゃね、シメても良くない?」
「ふくちょ、……笹塚、それはやめろ」
「ヤス、同室が八尋だって連絡来てた」
「ぶふぉっ、マジか!!ヤッフーー!!」

美樹の一言で細めていた瞳を丸くさせて喜色を露にする。それはもう、猛獣使いのようなそれだ。―――竣は手にしたままの逆光眼鏡を康貴に渡して、生徒の確認を始める。そんな竣を余所に、美樹は自室を探したいが為にまたまた一人で歩き出した。

「ちょ、待ってよヨシ!俺も連れてって!!」
「重い」
「今下りるから〜!!」

人が少ないと言っても、目立ちたくないのが本音である。駄々を捏ねる姿にどうしたもんだかと困り果てる美樹の視界に、最早竣は居ない。入学初日でこんな事になると考えてもいなかったのだ。ただ、状況整理が追いつかない。

隣に並んだ康貴を横目で見つめた。カラーコンタクトはしていないのかと疑問に思いながらも、全力で走ったらしい幼なじみの頭を撫でる。―――うりうり、ぐりぐりと撫でるものだから、康貴は「くすぐったいよ、バカ!」と笑った。

完全に二人の世界である。





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