箱庭本編 | ナノ




 『君は嘘つきだね。』



「あーるー晴れた、ひーるー下がり、いーちーばーへ続ーく道ー」

何故かドナドナを歌い出した美樹に訳が分からなくなった八尋は戸惑いながらもその痩躯を追う。猫背でありながらも、その長い脚で歩く為か歩幅が八尋と違ってくるのだ。―――長身滅べよ畜生。思わず舌打ちをする。

「部屋、何処だろうな」
「多分もう少しじゃないか?」

呑気にそう口にしながらも、ルームキーになるIDカードを片手に歩く美樹は少しばかり退屈そうだ。退屈"そう"なだけなので八尋に真実は分かりはしない。取り敢えず、と言う事で部屋探しを始めるが、如何せん天照は八尋自身も初めて入寮した場所だ。だからこそ道が分からない。

これは手分けして各自が自身に割り当てられた部屋を探した方が得策だと思ったのか、前を歩いていた美樹が気怠そうに八尋を振り返る。差し出された携帯が何を指してるのか分からなくて首を傾げれば溜め息を吐かれ、思わず携帯をへし折りたい衝動に駆られた八尋であった。

「アドレス交換しておいた方が良いだろう」

その言葉に開いた口が塞がらない八尋をゴミを見るような目で見た美樹はいつ知ったのか、八尋自身の携帯をしまっていたブレザーの胸ポケットに手を突っ込んだ。「ぎゃっ!」と短い悲鳴を上げた八尋だが、いつの間にか奪われた携帯は美樹の手の中である。

カチカチと操作していながらも、歩き続ける美樹を追った。やはり歩幅は合わない、








悠然とソファに足を組んでは、ベロンと瞳を覆っていた膜を剥がして笑う。即座に手渡された目薬を点眼すれば、瞼を開閉させて目尻を拭った。相も変わらず床に正座する竣に何も言わずに、康貴はその上っ面に笑顔を乗せている。

竣は目を泳がせながらも『待て』をした。出来る事は今はこれしか無いと理解しているからだろう。それさえも見透かした康貴は困ったような素振りを一瞬だけ見せた。然し、直ぐにそんな様子を隠した康貴は数分前に扉の向こうにある真っ白な廊下に消えた幼なじみを思い出す。

ありもしない『もしも』を想像して身震いしたのだ。居るかもしれない。居ないかもしれない。―――ただそれだけの想像が康貴をどうしようもなく昂らせた。ああ、でも、邪魔が居る。康貴は竣を横に小さく呟く。

「…オニ、ああ…シュンでいいのか。ね、此処には誰が居る訳?」
「…幹部の奴は居ますね。…すんません」
「なあんで謝るのさ?別にいいんだけどね、どうでもいいしー」

ケラケラと笑う様子に変わらないなと思う程に、竣は康貴の傍に居た訳では無い。ただ、何を考えているのか分からない彼の人にどう接したらいいのか分からないのだ。だからこそ、『どうでもいい』と血色の良い唇から吐き出されたそれに眉が無意識に寄った。

「あの、副長」
「んふ、なーにー?」
「黛八尋はあんた達の何なんですか?」
「……あー…トモダチだよ、トモダチ」

何でも無いように手をヒラヒラと揺らしながらも康貴は言う。シュンには関係無いもんねえ!至極愉しいと言いたげに此方を見下ろす姿に頷きそうになりながらも、やはり何処かで自身を見てくれているのではと期待が過る。然し、そんな意味は全くと言っていい程に皆無なのだ。

竣を見つめる赤い目が姿を隠すように瞼が下りていくのを眺めながらも、先程まで炒飯を食べていた彼の人を思い浮かべる。「―――…何か飲みますか?」問い掛けには答えは無い。どうやら眠ってしまったらしい。





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