箱庭本編 | ナノ




 ハートフル殺人


神王院学園は創立者である神王院家が代々引き継ぐ学園である。由緒正しき家柄の者を中心に学力の高い者から、莫大な寄付金を学園に入れる者まで様々な人間が入学出来るのだ。基本的には初等部から神王院に通っている人間が多い。だからこそ外部生は珍しくもあり、視線の対象となる。

小中高と一貫となっており、尚且つ男子校となれば珍しいのも無理は無い。―――ムラムラ先生と呼ばれた男は、身振り手振りで目の前の外部生に説明をしていた。これが一番最初の教師としての仕事だと思うと気落ちしてしまうのは誰だって同じなのだから。

「初等部の頃から男ばっかだと、やっぱり目覚めちゃうのよ。みんながみんな男に走っちゃうのよねえ…」
「むはーっ!!…じゃあ、ヨシと俺食われちゃう?若しくは食っちゃう?的な?」
「食うのか、…人間を」
「違うから!美樹違うからな!?」

「人間は美味いのか、そうか」顎に指を添えて何かを考え始めた美樹の肩を掴んで揺らす八尋の表情が必死過ぎて恐ろしい事になっている。パイプ椅子に座ったまま人間の食べ方を考え始めた美樹は思考が空の彼方に飛んでしまったので戻るには暫く時間が掛かるだろう。

自身達の担任がオネエである事を気にする事も無く、康貴は那由多に詰め寄って話の続きを促した。此方も美樹同様に瞳が見えないぐらいに反射するタイプの眼鏡を掛けているので、那由多から表情は分からないが興奮しているのは確かだろう。

「ムラムラ先生!じゃあさ、じゃあさ!犬とか猫とか居んの!?」
「犬……?ネコはそりゃあ居るわよ、男子校だし」
「ふ、ふはっ…!!やった、猫飼えるーー!!癒やしにゃんこ、こにゃにゃちわー!むふーん!」
「人間はやはり臓物から取り出すべきか。然し、……歯応えは悪そうだな」
「お願いだから戻ってきて!クールな無口攻めに戻れよおおおお!!」

誰かこの幼なじみ組を止められないのだろうか。生き物の猫とタチネコのネコを勘違いしてはペットを飼う宣言をする康貴を止める美樹さえも、絶賛勘違いオンパレードで思考が違う所へ飛んでいるのだ。誰か助けて下さい、切実に。

頭を抱えて八尋は那由多を見やる。頼みの綱は彼しか居ない。助けて先生!と念を送るが、何故か那由多は手入れの行き届いた手で口を塞いで笑っていた。何で笑っていられるんだ。思わず八尋の額に青筋が浮かぶ。

「こ、今年の外部生は面白いわねえ…うふふっ、」

俺様系ホスト教師(見た目だけ)が女のような声で笑う姿に思わず八尋は背筋を凍らせた。怖い。何この人萌えない。八尋の好意的パロメーターは萌えるか萌えないかで左右されるのだ。那由多は現在、ぶっちぎりで萌えないタイプにメーターが振り切っているが。

―――気を取り直して、八尋はやっと視線を此方に戻してきた美樹の手にIDカードを握らせて、康貴の分を懐に仕舞っておいた。既に八尋の中で康貴は『おっちょこちょい』に認定されているらしい。

「………これがルームキーになるのか?」
「そうよ、美樹ちゃん!美樹ちゃん達は進学科クラスだから色は赤なんだけど、くれぐれも紛失だけはしないでね?」
「……分かった、ありがとう」
「いーえ!面白いもの見せてもらったし、アタシは担任だから説明するのは当たり前よ?」

ふんわりと柔らかい笑みを浮かべて美樹の頭を撫でる那由多に八尋の好意的パロメーターと萌えパロメーターが一気に振り切った。

「包容オネエ×不思議系平凡……!!いや寧ろ眼鏡の下はイケメンだから×変装美形か?ごっつあんです!!!じゅるり」

美樹が現実に戻ってきたのとほぼ同時に八尋が妄想ワールドにのめり込んでしまう。未だに頭を撫でられていた美樹は、ゆっくりと那由多から距離を取って頭を下げた。先程まで人の食べ方を考えていた人物とは似ても似つかないと呟きそうになった那由多はその口を押さえて小さく笑う。

「始業式はまだだし、寮に戻ったりしてみたらどうかしら?」
「二人が戻り次第、行こうかと思います」

ペコリ。細長い身体を半分に折った美樹は手許のカードを見つめて微かに口角を上げた。



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