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 蒼い瞳の王子様


耳に入る笑い声に苛立ちを覚えながらも、背中を撫でるように揺れた髪に目を細めた。光を通しにくく出来た暗幕をカーテン代わりに窓を覆う。俺は作られた幻想を見上げた。隣に座ったままの天月と安部がケラケラと笑いながらも指さす星は、機械によって出来た産物である。そう思えば思う程、誰でも無い俺が泣きだそうとした。───プラネタリウムを買ったんだ!有り余った部費がすっからかんになった事を告げてきた二人は、今では星に夢中である。デネブ。アルタイル。ベガ。夏を代表する星を眺めていたかと思えば、簡単なリモコンをカチリと押すだけで空の色は変わった。

「あれって何だっけ」

「え、天月解んないの?この前、一条センセが教えてくれたじゃーん!」

「…………ホメオスタシス?」

「それ生物だろ。恒常性じゃねえか」

「てへぺろ!」

「「うざっ」」

舌を出した天月の頭を小突いて、あれはなー?と笑みを浮かべる安部。暖房の無い部室でそれぞれが所持する膝掛けにくるまっていれば、耳にしっとりと入った声がシリウスを指さした。大犬座のα星で、恒星で最も明るい星だぞ!へえ、安部にしては物知りだね!俺だって天文部所属だからな!?バカにすんな!お前等うっせー。部室の真ん中にプラネタリウム。それを囲うように背を向けて座る俺達の時間はこうして始まる。いつもなら煩い同級生や後輩も居るのに、俺達の空間が出来た事でそれを邪魔される訳も無い。

吐き出した息は白い。こんなクソ寒い場所でストーブも点けずにプラネタリウムを観る俺達を、あの顧問は笑うのだろうか。あの綺麗な紫色の瞳を瞬かせて、聞き慣れない訛りで俺達を呼ぶに違いない。想像がついてしまう。何たって付き合いが長いんだ。───そう自分に言い聞かせるように、傍らに置いていたマグカップを取る。ココアは嫌いだ。コーヒーなら好きだけど。そう言えば、二人はいつの間にやら眠ってしまったらしい。全寮制であるこの学園で有り得ない事では無いが、些か天月のこの警戒心の薄さには困ってしまう。

「寝た?」

「………」

「俺は、起きてるよ」

「天月は?」

「……、寝てる」

はあ、と溜め息のようなものを吐き出した安部にさっきまでの明るさは微塵と感じられない。───カチリ。リモコンのボタンを押して、冬の夜空が春のものへと変わる。寒いよな。寒いねえ。天月の寝息を感じながらも、俺達は作られた空を見上げる。どうして、なんてただの言い訳で俺もお前も苦労してんだよなと笑えば、部長には負けるー!と返された。ああ、それは俺も思うよ。



天月暦/向島光/安部蛍



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